アルトコイン投資の基本:グローバルソフトウェアビジネスの鉄則「品質の高いソフトウェアが必ず勝利するわけでない」#2

マイクロソフトに戦略で敗北したアップル

1970年代後半から立ち上がってきたパーソナルコンピュータ産業。その二大プレイヤーであるアップルとマイクロソフト。はじめに、立ち上がり当初は、アップルが優勢でしたが、その期間はアップル2を出した時期まで短い期間で、その後、マイクロソフトが圧倒的な覇者になり、一時、パソコンのOS市場の80%以上を支配する時期もあり、よく独禁法で、世界各地から訴えられていたほどです。

まず、知るべきは、OSソフトウェアの質、つまり、UXとUI、そして性能においては、アップルの方が確実に上だったということ。この点は、パソコン時代からアップルファンであればよく知られた事実です。しかし、アップルは、スティーブ・ジョブズが完璧主義者だったこともあり、ソフトとハードの一体型の事業を展開することを志向していた。ここに、優れた対抗の戦略を持ち込んだのがマイクロソフトです。全てを自社製品で賄おうとするアップルの垂直統合戦略は、ライバルを多く作ります。まず、パソコンメーカーです。日本の富士通やNECもパソコン事業を持っていたため、全てアップルの敵になります。マイクロソフトは、彼らを味方に引き入れる戦略を立てました。マイクロソフトは、OSと一部のソフトウェアしか作らない。他は全てパートナー企業に解放します、という水平戦略モデルです。そして、OSとソフトウェアをメーカーにバンドルで販売してもらうことで、プライシング戦略も柔軟に対応できるようにした。さらに秀逸だったのが、CPUメーカーのインテルとのアップルに対する共同戦線の連合を組んだこと。

当時のアップルは、CPUすら自前で作りたがるほどの垂直統合型の経営でした。OSとソフトウェアの操作性は、CPUの性能でほとんど決まるため、バージョンアップするタイミングをインテルの製品と合わせることで、この水平モデル戦略が、ソフトウェアの機能性そのものに支障をきたさないようにアライアンスを構築した。

そして、OSは無料同然で提供し、キラーアプリケーションがWord, Excel, PowerPointの3つにあることを自ら見定め自社で提供し、OS上のサードパーティアプリの開発ライセンス料も無償で解放することで、OSのシェアを最大化することによる事業のネットワーク効果を作り出すことに成功した。つまり、パソコン産業におけるマイクロソフトとアップルの戦争は、ソフトウェアの品質ではアップルに劣るマイクロソフトが、戦略でアップルを打ち負かしたということです。

ジョブズは、その後、アップルを追い出され、再度、復帰した後に、この苦い敗北経験から得た学習を元に、iPhoneで、マイクロソフトを徹底的に打ち負かします。また、iPhoneの競合となったGoogleのAndroidは、マイクロソフトのAppleへの対抗戦略を元に、事業戦略を展開し、Appleとの二強体制を作り出すことに成功します。その点は、「こちらの記事」にまとめています。

Googleにアーキテクトで敗北したヤフー

僕が、インターネット産業を分析する際に一番初めに参考にした書籍に1997年に出版された「覇者の未来」という本があります。アメリカのある有名なITアナリストが書いた本で、一時期は、全米でベストセラーになったほどです。そこには、インターネットの覇者になるものはこう書かれていました。「人々がインターネットを有効に活用する上では、様々なメディアの玄関口となるメディアが必要である。それは間違いなくポータルサイトである。故に、ポータルサイトこそ、インターネットの覇者になるだろう」と。当時、世界最大のポータルサイトは、「ヤフー」でした。

しかし、結果はどうでしょう。彼がその本を出した後に、インターネット市場を制したのは、Googleの検索エンジンでした。ヤフーの創業は1995年3月で、Googleの創業は1998年9月です。僕は、この事実を見たときに、なぜ、ヤフーが敗北したのか徹底的に調べ考え抜きました。出した結論は、「アーキテクト」。Googleは、インターネットの本質が、メディアのコモディティ化にあることを理解していた。つまり、とてもヤフーがやっているように、人力のディレクトリで、爆発的に成長していくコンテンツを整理し、ユーザーの情報収集のニーズに答えるなど、インターネットにおける現実的にスケールするシステムアーキテクチャにはなり得ないと見抜いた。つまり、拡張性がないということ。だから、Googleは、ページランクに代表されるコンテンツの自動整理とキーワード検索に徹底的にこだわった。キーワード検索というUX=ユーザー体験を実現できるシステムアーキテクトを生み出すことに徹底的にフォーカスした。その実現モデルが、今ではよく知られた「Google File System」ですね。拡張性高い検索エンジンを実現するために考案され生み出されたシステムです。日本のビジネス本ではまず出てこない単語です。

しかし、ヤフーの経営陣は、この可能性を見抜けなかった。だから、旧来型のディレクトリ検索やポータル戦略にこだわっていた。そこで犯した最大のミスが、Googleをヤフーの検索ボックスに採用したことです。Googleの創業者ラリーページは、これを実現するために、ヤフーに出資していたVCのKPCBのパートナーであるジョン・ドーアを指名して、Googleに出資してもらったことはシリコンバレーではよく知られた話です。ジョン・ドーアがセールスマンになって、ヤフーにGoogleを採用してもらい、この結果、ヤフーという世界最大のポータルで、Googleの検索エンジンの結果品質を世に知らしめることに成功した彼らは、ヤフーのユーザーをGoogleのサーチサイトに誘導する流れを生み出し、やがて、ヤフーを超えていきます。その後、検索エンジンの可能性を理解したヤフーは、すぐにGoogleとの契約を解除し、Google競合のアルタビスタを買収し、対抗策に打って出ますが、Google File Systemを完成させていたGoogleの前には、検索エンジンのスケーラビリティで全く太刀打ちできず、完全敗北しました。

つまり、勝因は、アーキテクトにあったわけです。

補足として、アメリカのヤフー本体は、Verizonに買収され、今は社名もなくなりました。日本のYahoo!Japanが、Googleに改善に敗北しなかった最大の理由は、ヤフーの最大株主でもあったソフトバンクの孫さんが本体の通信事業と組み合わせて事業展開するアメリカでは実行していないユニークな事業戦略を展開し、また、日本のインターネット競合の動向に合わせて、オークション事業やEコマース事業など、サービスの差別化を丁寧に展開したことで、現時点でも検索エンジンはGoogleを使っているのですが、ポータル事業としての価値を失わなかったことではあるのですが、僕の結論は、やはり「競争が少ないこと」ですね。北米であれば、EコマースであればAmazon、オークションであればEbayなど、強力なライバルがおり、アメリカのテック市場の競争は、「ゼロサム」ゲームが当たり前なので、中途半端な事業は、No.1プレイヤーと圧倒的に差をつけられて行きます。その点で、ポータルとしてリソースが複数の事業ドメインに分散している北米のヤフーは彼らに徹底的に打ち負かされ、一方、競争の少ない日本では、ヤフーの周りに、強力なライバルがほとんど出てこないので、生き残ることができる。ヤフージャパンを苦しめたフェイスブックやTwitterもいずれも、シリコンバレーのプレイヤーであって、日本のプレイヤーではない。そういうことです。

「企業文化」でフェイスブックに敗北したGoogleのSNS事業

最後に、ソフトウェア事業の勝因に様々な要因が関係する一例として、この話をします。もう今では話を聞かなくなりましたが、Googleは一時期、数千億という資金を投入して、Google+というSNS事業を立ち上げていた時期があります。2011年から2019年4月の間です。

From Wikipedia – Google+(グーグルプラス)とは、かつてGoogleが運営していたソーシャル・ネットワーキング・サービスである。サービス運営の終了に至るまでには2019年8月に個人向けサービスが終了するとされていたが、Google+における世界的な利用者数の低迷しているとGoogle側の判断により、2019年4月2日に前倒しされた。

この動機はどこにあったか?と言えば、間違いなくフェイスブックです。下のグラフは。2017年の各SNSの月間アクティブユーザーの数を比較したものです。

URL: https://techcrunch.com/2017/06/27/facebook-2-billion-users/

フェイスブックのアクティブユーザー数は、20億人。現在は、25億人を超えていると言われているので、同時点の世界のインターネット人口38億のうち、66%がフェイスブックを使っていることになります。そして、Googleの最大の脅威は、フェイスブックがタイムライン内を流れるコンテンツをGoogleにクローリング不可にしていることなのですね。だから、Googleを使ってフェイスブックのコンテンツを検索することはできません。

Googleからすると、フェイスブックというソーシャルメディアが育つほど、ユーザーが検索エンジンを使わなくなる事業リスクがあります。そして、それは、スマホが普及したことで現実になったのですね。以下は、KPCBのインターネットレポート2012からの抜粋で、現にスマホが普及したことで、インターネット利用者自体が増加し、検索ユーザーも増えていますが、収益性は低下しているのですね。これは、スマホの画面が、PCに比べて小さくなるため、多くの検索結果が表示できず、検索ページの画面遷移の数が減少することで、リスティング広告の表示回数が減ってしまい、収益悪化に繋がってきます。つまるところ、スマホでは、ユーザーは、PCほど検索エンジンを熱心に使わないということです。

https://www.bondcap.com/report/it12/#view/21

そこを脅威に感じたGoogleは、「ならば、自らSNS事業を立ち上げ、収益化しよう」ということで、Google Plusを立ち上げますが、全然、上手く行きませんでした。最大の敗因は、「企業文化」です。Googleは、AI(人工知能)のDNAが強い会社です。検索エンジンもAIの塊ですからね。ですから、AIが関わる事業、例えばアドテクなどについては、慣性の法則が働いて、大半、上手く行くのですが、ソーシャルネットワークの事業は、カルチャーやファッション性などヒューマンオリエンティッドな要素が強く、AIの要素の真逆な性質を持っている点が多数あります。これは、Googleという組織にとっては、不得意な世界なのですね。なので、そのプロとして成長してきたフェイスブックには、いくら莫大な資金を投じても全く目が出なかったわけです。つまり、最大の敗因は、「企業文化」です。

以上の話で、ソフトウェアテクノロジーが優れているだけで、競合に勝つことができないということが見えてきたと思います。その上で、最後に、ブロックチェーン業界で起きているあるユニークな現象をお伝えします。

かつてのソフトウェア事業では機能してなかった1st Mover Advantageが機能するブロックチェーン業界

1st Mover Advantageとは、1番初めに動き出したものが得る先行者益のことです。わかりやすい話、2010年のビットコインでマイニングを始めたユーザーは、一般的なパソコンと通常のインターネット回線でマイニングすることができるほどマイニング難易度が低かったので、膨大な量のビットコインを買う必要なくマイニングで得ることができましたが、今は、マイニング難易度が上がりすぎて、専業のマイナーしかマイニングで勝つことができません。これも1つの先行者利益です。

しかし、ソフトウェア業界では、長らくこの法則は機能しませんでした。先ほどのヤフーVSGoogleのケースはその典型例で、先行するヤフーはポータルがインターネット市場の覇権プレイヤーになっていたけど、後発のGoogleは、それをみて、「ああ、これではスケールしない」と判断し、検索エンジンにフォーカスした。ソフトウェアの業界では、1st Moverは、市場の先駆者である分、投資家から資金調達をするにも苦労するし、市場も本当にゼロから開拓するため苦労しますが、それより優れたソフトウェアテクノロジーを作って参入する後発組は、先行者が存在を証明した市場がすでにあるため、投資家からの資金調達も楽で、利用ユーザーもすでにいるため初期のユーザー獲得コストも先行者に比べて楽になります。これが、シリコンバレーでは、割と知られた事実でした。ですから、元テック起業家でM&AやIPO経験のある起業家は、市場を育てる意味合いも込めて、この2つのケースに出資することがありつつ、元起業家ではないVCは、先行者への投資はリスクが高いと判断し、強力な後発組が出てくるのを待つなのど投資戦略をとっているケースが多かったのです。

ところが、ブロックチェーンの市場はこれが、現時点でほとんど通用していません。ビットコインの技術的課題を克服したビットコインと同じポジショニングの仮想通貨プロジェクトはたくさんありますが、ビットコインに全く太刀打ちできていません。世界初の仮想通貨であるビットコインが圧倒的です。つまり、1st Mover Advantageを得ている。

BaaS市場を作ったイーサリウムもそうですね。イーサリウム最大のソリューションであるICOの発生件数と時価評価データを見ると明白ですが、2019年6月時点で、イーサリウムが、ICOの数と、ICOしたプロジェクトの時価総額で他を圧倒的に凌駕しています。件数も、イーサリウムは、合計1193種もの価値を持つトークンが発行されている。2番目に多いのはNEOで28種、WavesとStellarがそれぞれ24種。桁違いですね。明白に、1st Mover Advantage = 先行者益が機能しています。

URL: https://crypto.watch.impress.co.jp/docs/news/1189374.html

以上になります。

これ以外のアルトコインに関する投資の基本的な考え方、つまるところスタートアップ投資への考え方は、「こちらの記事」にまとめています。上場株の投資とは見ている視点が全然違うので参考になると思います。

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