沖縄が次に目指すべき、21世紀型の”シリコンバレー、”Deep Tech Island” とは何か? #2

国連の掲げる「SDGs」に対する根本的な解決策「Deep Tech Island」とは何か?

先日、OISTに出向されている沖縄県庁の長濱氏の計らいで、元副知事でOISTの監査役もされている上原良幸氏とお会いする機会をいただき、素晴らしい議論をさせていただくことができた。上原氏より、沖縄の本土返還から、OIST構想に至るまで様々な沖縄の歴史の話を聞く中で、私の中で、心の琴線に触れた逸話が一つある。それは、本土復帰運動の中核的役割を果たした「沖縄協会」の前進となる「南方同胞援護会」の初代会長を引き受けられた澁澤敬三氏の存在である。澁澤敬三氏は、「日本資本主義の父」と呼ばれる私が最も尊敬する経営者の一人でもある澁澤栄一氏の孫であり、栄一氏亡き後の澁澤家を継いだ方でもあり、何より重要なのは、太平洋戦争中の日銀総裁、敗戦直後の大蔵大臣を務めた方である。太平洋戦争中は、全体主義による統制経済の真っ只中であり、敗戦後の日本の金融システムといえば、預金封鎖からハイパーインフレ、新円の入れ替えなど、つまるところ、日本史において、最も辛い時期の金融システムを背負って来られたリーダーということである。その方が、GHQの財閥解体後、公職追放された後、沖縄の本土復帰に人生を捧げられたことに、今回の私のDeep Tech Island構想との深い縁を感じた。なぜか?

新一万円の顔に、澁澤栄一氏が決まったことはよく知られている。また、2021年の大河ドラマの主人公が澁澤栄一であることもよく知られている。「日本資本主義の父」である澁澤栄一氏、彼ほどの人物が、今の時代に再び生まれていたならば、何をやるか?私は確信している、澁澤栄一氏が間違いなくやっていることは、自ら育てた日本の「資本主義を終わらせること」である。なぜか?

明治の澁澤栄一氏は、日本社会に資本主義を浸透させねば、近代国家日本は成立しえず、富国強兵政策など口先ばかりに終わり、日露戦争に勝利するなど途方もないたわ言であり、欧米列強に植民化されることは時間の問題だと考えた。だから、彼は、500社にも及ぶ株式会社を育て、600にも及ぶ社会公共事業をやり遂げ、日本全体に資本主義の基盤を築き上げた。みずほ銀行、キリン、東京海上日動火災保険など、全て、澁澤氏が育てた企業の生き残りだ。

しかし、今、時代は移り変わり、かつてその明治日本を危機から救った「資本主義」が、今度は、人類全体を危機に追い込んでいる。資本主義が求める「飽くなき経済発展」によって、我々は、近い将来、地球に住めなくなるほどの存亡の危機に直面している。そのターニングポイントは2030年と言われている。国連WWFが毎年発表している「Live Planet Report」が明らかにしたように、現在のままの経済発展を人類全体が続ければ、簡単に言えば、人口爆発が起きている東南アジアやアフリカの人々が、日本のような先進国と同じ生活水準を目指せば、2030年には地球2個分の資源を人類は必要とする。地球のもつ資源再生力以上に人類が過剰な資源を消費してしまう、これこそが環境破壊の最大の原因である。つまり、今のまま進めば、2030年以降、環境破壊は急激に深刻化し、一部地域(主に都市)では人も動物も住めなくなるほどの環境汚染の深刻化が発生すると言われている。私は、大学生のころより「ポスト資本主義」の研究を続け、その解決策を起業家として実践する人生を生涯に渡り歩んできた。私が人類の4大問題と呼んでいる「環境破壊、人口爆発、経済格差、戦争」、これら4つの原因の全ては、「資本主義」にあると確信している。詳しくは、私がOrb時代にまとめた10ページほどのホワイトペーパーを読んでもらえれば理解できる。最大のがん細胞は、我々の主要な経済指標であるGDP(国内総生産)である。こいつを破壊し、新たな指標を普及させなければ、我々は近い将来、必ず、減り続ける資源に対して、奪い合いの戦争を再び始めることになるだろう。それは、まさに見るも無残な「生き地獄」の世界である。これをいかにして食い止めるか。

国連は「SDGs」を策定した。持続的な経済システムも含めた17つのゴールを追求することで、この生き地獄を回避しようという動きである。このSDGsのお陰で、単なる金儲けではない、「人類が地球と共生し続けるため」に必要な科学とテクノロジーに人とお金が流れる土台が出来上がった。しかし、SDGsは解決策ではない。あくまで、「こうなったら、素晴らしいよね」というゴールの話だ。そして、その17のゴール条件を満たしたロールモデルがまだ一つも出てきていないのである。

そして、私が考えるDeep Tech Islandは、人類4大問題の完璧な解決策としてデザインしており、間違いなく、SDGsのロールモデルになれると確信している。Deep Tech Islandのコンセプトは、「互いの文化的なつながりを尊重しつつ、経済的な自立を目指す」こと。米中の経済摩擦に始まり、貿易戦争や資源戦争が絶えず、我々の経済システムに起きるのは、お互いに経済的に依存しすぎているからである。ならば、逆を追えばよい。つまり、「自給自足率」こそが、SDGsのゴールに見合った未来の持続的な経済システムのカギとなる。GDPに変わる経済指標は、間違いなく自給自足率(Self-Sustaning Ratio、SSR)になると考えている。決して、原始的な生活に戻れということではない。テクノロジーを駆使して、現代の文明社会の生活水準は落とさず、自給自足率を引き上げていく、これこそが、21世紀、これから我々が目指すべきイノベーションの中核となるべき領域なのである。そして、この核となるのが、「Deep Tech」である。地球と人類が共生するためのテクノロジー・イノベーションこそが、Deep Techの核と言える思想である。

最近、少しずつ注目を集めだした自然科学を中心とする基礎科学の分野に立脚するこのDeep Tech領域のイノベーションは、インターネットなどのイノベーションに比べて事業化に時間がかかる。インターネットなどのコンピュターサイエンス関連の事業は、立ち上がってから平均2年で事業化が可能だが、Deep Techは、平均5年から10年かかると言われている。その遅延する原因となるペインポイントを全て解消するのがDeep Tech Island構想の一つの重要要点である。テクノロジーベンチャーにとって最難関である「キャズム」を超えるための0から1を作り出すための基礎となる市場規模とその全ての障害要素を取り除いたインフラをこの沖縄の地に整えるのである。これが実現できれば、シリコンバレーは決して手が届かない所に、沖縄の地は到達することができる。

そして、私が長年研究してきているブロックチェーンは、ここに二つの意味で重要な役割を果たす。一つは、現在、GoogleやFacebookなどシリコンバレーの企業が中心になって維持されているインターネットのインフラをブロックチェーンによって非中央集権化していくことである。これで、インターネットから支配者が消える。支配者の消えたインターネットは、世界中の人々が、互いの文化的なつながりをもつ、つまり、多様性を維持する上で、今以上にに大変、重要な役割を果たすことになる。この実現のためのプロジェクトは、すでにブロックチェーン市場で、数十立ち上がっている。そして、もう一つは、このDeep Tech Islandを実現するための経済システム自体、ブロックチェーンを利用して非中央集権化した仕組みで実現することである。いずれもカギは、ウィキペディアにある。ウィキペディアは、正社員はたったの100名弱、実際の運用の大半は、ボランティア2万人のコミュニティによって、世界第5位のサイトであり、最大かつ唯一のオンライン百科事典を構築しているのである。そして、これらの実現のカギは、ウィキペディアの運用モデルで証明されたように「奉仕経済」にある。奉仕経済の実現によって、我々は、大きな政府やインフレする通貨を不要とする、自給自足型の新しい政治経済秩序を実現することができる。そして、この奉仕経済を実現するカギは、「情報格差の解消」と「信用格差の解消」にある。この点については、「こちらの記事」にまとめている。これら、全ての要素をこのDeep Tech Islandのインフラ構想に組み入れている。

このようなことを考えている人物は、私ぐらいしかいないのではないかと考えている人も多いと思うが、実際はそうでない。例えば、現代資本主義の中核であるマネタリズムの創始者であり、ノーベル経済学賞を受賞したミルトン・フリードマンの孫として知られるパトリ・フリードマンは、フランス領ポリネシア政府と契約を結び、Deep Tech Islandに近い新たな海上都市構想(Seasteading Institute)の建設を2008年ごろから始めており、これに元PayPal創業者兼CEOで、シリコンバレーの著名投資家であるピーター・ティール氏などが出資している。この動きは、Deep Techに合わせて向こう10年で更に加速していくだろう。人類が、地球に住み続けられるか住めなくなるかの危機的な状況なのだから、当然である。

つづく。

関連記事