パンデミックとブロックチェーンと保険ビジネス

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新型コロナウィルスによって、世界経済がかなりダメージを受けていますね。その点を踏まえて、「保険ビジネス」について思うところをまとめておきます。

リスクが定量化できる対象のみ保険会社は商売にする

まず、ここですね。保険会社というのは、基本、リスクが定量化できるもののみを商売の対象にします。例として生命保険をあげましょう。更に詳しく「がん保険」を対象にしましょう。

保険のビジネスモデル自体は単純です。がんになった場合の、本人の医療費は高額になるのが当たり前。安価な治療方法が発明されていないからですね。そのリスクを追いたくユーザーは、保険会社に「保険料」として支払う。保険会社は、そのようなユーザーからたくさん保険料を集め、そのプールした資金の中から、実際に、がん患者が発生した場合、まとまった資金を提供する。つまり、ユーザーがリスクを細分化してお互いに少額負担することが、「保険」の本質です。この少額負担のことを「掛け金」と呼んだりします。ここが後からまた話が出てくるので覚えておいてください。

ですから、掛け金を払うユーザーは、自分の過去の健康に関するデータを保険会社に提出することが義務となる。掛け金の平等化を実現するためですね。がんになりやすい生活をしている人ほど、掛け金は上がります。これも統計データで、どのような生活を送っている人ががんになりやすいかを把握できるから可能になります。

ですから、突き詰めると、ある保険がビジネスモデルとして成立するのは、がん患者の過去の統計データを分析することで、その人の生活スタイルや過去の診療データなどから確率を割り出すことができるからですね。逆に、それができない対象に対しては、保険会社はビジネスの対象にしません。なぜか?

利益が上がらないからですね。資金を集めるのにかかった営業マンの人権費や、商品開発の費用などが回収できないレベルのリスクは、保険商品の対象にはしないということです。

また、プラスアルファのからくりを話すと、がんもそうですし、生命保険、自動車保険などの損害保険もそうですが、「もしものときに備えて」が保険の本質ですから、実際に、がんになることをを望んでいる人はいない。つまり、保険会社に集まってくる「掛け金」を実際に支払う金額は多くないということです。だから、保険会社は、その資金を資産運用するのが一般的です。有名なのは、ウォーレン・バフェットが経営するバークシャー・ハサウェイですね。彼は、バークシャーを機関投資家の会社に育てるため、ガイコなどの保険会社を傘下に納めることで、その資金を手にしました。わかりやすい事例ですね。日本でも、生命保険最大手のニッセイや第1生命は、日本国内で最大規模の機関投資家です。なぜ、機関投資家として掛け金の多くを株式や国債に投資に回せるかと言えば単純に実際に保険金を支払う件数と金額が少ないからです。

では、これらの事実を踏まえた上で、保険会社にとって、ニーズはあるが、最もリスクの定量化が難しい対象は「何」か?

「自然災害」ですね。

リスクの定量化が困難な自然災害

そう、定量化が極めて難しいからです。簡単に言えば、損失額のレベルが把握するのが困難。しかし、台風や山火事など経済的なダメージが大きいため、ニーズは大きい。彼らも努力しており、日本などでは、元々地震が多い上、阪神淡路大震災や東北大震災などの大規模地震も近年よく発生していることもあり、「地震保険」が商品開発されています。この場合、ある程度の過去の地震による経済被害を元に、保険料を決定し商品化する。しかし、そこには当然細かい規定があり、一定規模の以上の地震の場合は保険金支払いの対象にはなりません。当たり前ですが、先ほどから話をしている通り、保険会社は「定量化できないリスク」には決して手を出さないからです。

これが、今回の新型コロナウィルスのように「パンデミック・リスク」となると、ほとんど定量化が無理ですね。なぜなら、地震の場合はある程度プレート分析などで予測精度が上がってきていますが、ウィルスは、突然発生し、そして、自らが生き残るため突然変異もする。更に、今のようなグローバル化した経済の中では、地震と異なり、「感染する範囲」を特定することがほぼ不可能なので、全世界に経済的な損失が発生する。地理的に特定可能な地震より、更にリスクの定量化が難しいわけです。

つまるところ、ここに、一部の経済学者が「万能」と称する「市場経済」の限界がある。しかし、本質的なその限界は、実のところ、市場経済そのものにあるわけではない。その限界を生み出しているのは、利益を追求することを伴った解決策しか生み出すことができないという資本主義のメカニズムそのものにある。

今のところは、ビジネスモデルの対象にならないリスクは、政府が肩代わりするしかない

だから、我々の社会では、それらのリスクは、市場経済のプレイヤーではない第3者の「政府」が肩代わりする。しかし、政府のこの資金源である我々が支払っている税金は、別に地震やパンデミックのために積み立ててられているわけではない。教育、社会福祉、医療保険、経済対策などなど、複数の目的のために割り当てられているのであり、最も重要なことは、不測の事態に対して予算が組まれることはまずないということです。「内部留保」という考え方が政府予算にはないからですね。基本、単年度型、つまり「使い切り型」です。「掛け金」ではないのです。だから、毎年、国会で来年度の予算審議をやっている。

なぜ、そうなるか?と言えばは単純で、お金の出どころが税金だからです。支払い手の国民は、内部留保するぐらいなら、金を返せというに決まっている。だから、毎年、使い切るしかない。

だから、例えば、3.11のケースで言えば、その後、僕らが払う税金の中に、「復興振興税」という新たな税金が加わっています。

From Wikipedia – 復興特別税(ふっこうとくべつぜい)とは、東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法に基づいて、東日本大震災からの復興施策に必要な財源を確保するために課されることとなった日本の税金。復興特別法人税、及び復興特別所得税からなる。

東日本大震災からの復興に当てる財源の確保を目的として所得税、住民税、法人税に上乗せするという形で徴収される。所得税は2013年(平成25年)1月1日からの25年間、税額に2.1%を上乗せするという形で徴収される。法人税は2012年(平成24年)4月1日以降から始まる事業年度からの2年間[2]、減税をいったん実施した上で、税額の10%を追加徴収する。住民税は2014年度(平成26年度)から10年間、年間(給与から天引きの特別徴収では6月から翌年5月)1,000円引き上げる。個人所得税が25年間であるのに対し法人税はわずか2年間である。税の使途は被災地に限定しており、政府はこれらの増税で10.5兆円を捻出する予定。

つまり、現実的には、巨大地震やパンデミックなど、保険会社が負えないリスクは政府が負うしかないといいつつ、実際のところ政府もそのようなリスクに対処するための金は持たないまま運営することがルールになっている。つまり、本来の保険の目的である「もしものときの積み立て」機能は政府も持っていないということです。

つまるところ、僕らの世の中には、パンデミックのような不確実性の高いこれらのリスクに対して、本質的な解決策が何もないということです。これは巨大なペインポイントです。自然災害は、ゼロになることはないからですね。しかしながら、これらの話を踏まえれば、勘の良い人であれば、本質的な解決策が見えてくる。つまり、

利益を追求しない保険システムがあれば、保険会社や政府に頼らなくても、市場掲載のメカニズムで様々なケースで保険商品を運用することができるのではないか?

ということです。

ブロックチェーンによるDAO型の保険商品がもたらすイノベーション

そう、それがブロックチェーンで運用する保険商品がもつイノベーションの可能性ですね。利益を追求せず、かつ、既存の保険会社と同様に内部留保型のモデルが全ての保険商品に適用できるため、保険会社も政府も追えないリスクを負うことができる可能性がある。また、この保険システムをDAO(詳しく「こちら」にまとめています)で運用することで、保険金の支払い決定も直接民主主義で行うことができるため、恨みが生まれない。全員の合意が伴っているのであるから、恨みっこなしですね。特定の利害の代表者のみが影響を発揮できないのが、DAOの優れているポイントです。

という可能性が見えてくるわけですね。最近、ブロックチェーン業界では、このDAO型の保険システムの開発が進んでおり、優れたノウハウが蓄積されつつあります。最近の事例でいえば、Nexus Mutualのケースですね。以下、抜粋です。

“Nexus Mutualは、DAOベースの保険システムです。あるDeFiプロジェクトで発生したハッキング被害に対して、このDeFiプロジェクトがNexus Mutualに保険料を払っていたのですが、保険金を出すか出さないかをDAOの投票で決めました。投票者は、当然、Nexus Mutualのトークン保有者です。1回目の投票ではDeFiプロジェクト側の証明データ不足で支払い案が却下されたのですが、2回目に、彼らよりシステム処理上のエラーが証明され、そのエラー処理をハッカーが利用してハッキング行為を働いたことがデータで証明されました。その結果、Nexus Mutual側の保険商品の支払いルールに該当すると、DAOの投票者は判断し、支払いが決定しました。ブロックチェーンの集合知形成として素晴らしい実績だと思います。”

Nexual Mutualのケースも踏まえてですが、あらゆるリスクに対処できる保険システムとしての可能性を秘めているプロジェクトの一つが、Augurですね。詳しくは「こちらの記事」にまとめています。

以上、みなさんの参考になれば幸いです。

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