沖縄のOISTが、なぜ、「失われた30年」の中、わずか10年で世界9位の科学技術研究院大学になることができたのか?

 

「平成の失われた30年」という日本が世界の中からどんどん忘れられて行っている中、唯一、世界に認められる成果をあげた沖縄にあるOIST。日本のメディアなどでは「謎の科学者集団」と紹介されていることも多いわけですが、OISTは、2019年に、著名科学雑誌Natureが毎年発表している世界の研究機関ランキング「Nature Index」で、東大の40位を大きく引き離し、世界トップ10以内の9位に入りました。詳しくは「こちらのプレス」を参照してください。

そして、僕は、2013年末より、世界最速のプライベート・ブロックチェーンBaaSであるOrb DLTによる地域通貨事業を立ち上げたOrbと共に、日本の仮想通貨・ブロックチェーン産業をゼロから立ち上げ、2018年にSBIホールディングスに売却したのち、2019年から、このOISTに、副学長待遇(Vice President)のEntrepurenuer in Residenceとして参画、OISTの現在、中核をしめる基礎科学を中心とした研究フレームワークに、研究成果の社会実装を目的とした応用化学のフレームワークを定着させること、更に、沖縄にシリコンバレーに劣らぬテックスタートアップエコシステムの開発、そして、ポスト資本主義を実現するという自分の起業家としての天命として、GDPに変わって、僕が提唱しているSSG=Self-Sustaining Growth(自給自足率)を成長指標においたDAO(非中央集権型組織)によるブロックチェーン社会の実装を進めています。

今日は、なぜ、OISTが、これだけの成果を短期間にあげることができたのか?について詳しくお話します。

OISTとは?

いつも通り、Wikipediaからの抜粋です。

From Wikipedia – 沖縄科学技術大学院大学(おきなわかがくぎじゅつだいがくいんだいがく、英語: Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University (OIST))とは、沖縄県国頭郡恩納村字谷茶に本部を置く5年一貫制の博士課程を有する大学院大学である。2019年、質の高い論文数で世界な研究機関をランキング付けするNature Indexの正規化ランキングにおいて、世界9位と評価された。(同ランキングにおける東大の順位は40位)

沖縄科学技術大学院大学の設置に向けた歩みは、2001年に尾身幸次内閣府特命担当大臣(沖縄・北方対策、科学技術政策担当)(当時、2013年から本学理事を務め、2018年名誉博士)が沖縄に国際的な大学院大学を設置する構想を提唱したことに端を発する。2002年5月、沖縄復帰30周年記念式典において、小泉純一郎内閣総理大臣(当時)が設置構想の推進を表明。2003年4月には大学院大学の建設予定地として恩納村が選定。

2005年3月、大学院大学構想の推進主体を設立する独立行政法人沖縄科学技術研究基盤整備機構法が成立。機構の理事長にはノーベル賞受賞者のシドニー・ブレナーが就任。

2009年7月には、沖縄科学技術大学院大学学園法が可決成立。同法により、大学院大学の設置主体として、学校法人が設立され、2011年11月1日付で学校法人沖縄科学技術大学院大学学園 (Okinawa Institute of Science and Technology School Corporation) が成立。

現在は、神経科学、数学・計算科学、化学、分子・細胞・発生生物学、環境・生態学、物理学、海洋科学に大別される7分野で学際的な研究を行っている。

この歴史を見ればわかる通り、OISTの構想自体は、2002年ごろから始動しているわけですが、実際に大学院大学として本格的に始動したのは2011年からです。つまり、設立からわずか10年足らずで2019年に「Natuer Index」で、日本の研究機関で唯一、世界トップ10入りした大学院大学ということです。

これだけ、日本経済の地盤沈下が続いている中で、わずか10年足らずで、世界的に成功しているOIST。この成功裏はどこにあるのか?

僕は、明確に3つだと考えています。

優れたアイデアが「同調圧」によって潰されない「多様性」

まず、シリコンバレーと同じく多様性を重んじる文化が完璧に根付いていることです。OISTの研究ユニットに所属する教授、准教授、ポスドクのリサーチャー、エンジニア、学生など、世界60カ国から人材を獲得しています。日本人率は30%以下です。つまり、この中自体に「人類社会の全体」が存在しているということです。公用語は英語です。と行っても、アメリカ人やイギリス人自体もマイノリティですから、キレイな英語が話せる人は全体のわずかです。インド人はインド訛りの英語ですし、ロシア人はロシア語訛りの英語。まさに、シリコンバレーと同じ環境ですね。

なぜ、今、イノベーションの世界で多様性が重要になっているのか? それは、多様な価値観から生まれてくる答えにこそ、優れた集合知が形成され、その集合知こそが、世界的なイノベーションを有む原動力になっているからです。

悪い例を元に話をした方が、みなさんの理解が早いでしょう。日本の「失われた30年」の原因の一つ、「日本市場のガラパゴス化」という話がよく出てきますね。簡単に言ってしまえば、日本から生まれてくるものは、日本人にしか流行らないという現象です。最近の事例でいうと「ガラケー」ですね。

 

日本のガラケー:Picture From – https://antenna.jp/articles/3390610

これは、ガラパゴス・ケータイの略語です。すごい自虐的なネーミングですね。笑 ちなみに、海外では、日本のガラケーは「フィーチャーホン」と呼びます。日本のメーカーが作るガラケーは、日本人にしか流行らない。一方、多様性のあるシリコンバレーから生まれた、iPhoneやその競合のAndroidのスマートフォンは、世界中で使われています。

スティーブ・ジョブズ率いるアップルが生み出した革命的なスマートフォンiPhone

現在のスマートフォンのOSの世界市場シェアは以下の通りです。iPhoneが約29%、Andoroidが70%。スマートフォン以外のガラケーや残りわずかに1%。スマートフォンは2020年時点で、35億人以上が保有していると言われています。世界人口の約半数です。

URL: https://ameblo.jp/kkawapy/entry-12437924822.html

 

これが、多様性の威力です。僕も現地で起業したのでよくわかっていますが、シリコンバレーには、世界中から優秀な頭脳が集まっています。インド人、中国人、ロシア人、東欧やフランス、ドイツ、イギリス、などなど。論より証拠です。

そして、それと全く同じ環境が再現されているのが、OISTの研究ユニットです。僕の体感では、OISTの多様性は、シリコンバレーのレベルの上を行っています。これが、僕がOISTに高い可能性を感じている最大の理由です。

なぜ、多様性がイノベーションの原動力になるか?と言えば、僕もこのブログでよく指摘している日本社会でよく問題を引き起こす「同調圧」が存在しないからです。特定の同じタイプや価値観の人が多数を占める組織や社会では、当然、その人たちの意見が優遇されますよね。多勢に無勢という言葉の通りです。しかし、世界全体でみれば、その人たちは社会の少数派にすぎません。当然ですね。人類は70億人もいるのですから。日本人の人口1億人の価値観は世界全体で見れば、1/70の存在価値しかない。

ですから、日本から生まれてくるものは、世界市場の1/70の確率でしかグローバルヒットしないわけですね。恐ろしく低い確率です。市場がガラパゴス化するのは必然と言えます。一方、世界中からそれぞれの人種代表でかつ超優秀な人材を集めてきているシリコンバレーは、70億人分の総意とも言える集合知がそこに形成されますから、シリコンバレーで鍛えられてくるプロダクトが、世界70億人に普及するパワーを持っているのは、ごくごく自然なことということです。

そして、シリコンバレーと同格以上の多様性をもつOISTでは、日本で唯一アイデアが「ガラパゴス化」しない場所になるから、研究活動もまたガラパゴス化せず、世界が認める研究成果が生まれて行くのはごくごく自然なことなのです。

そして、これを1番目に持ってきている理由は、移民を積極的に取らない今の日本社会でこの世界の最高の頭脳を結集された多様性のある空間を実現するのが、最も難易度が高いのですね。僕時代、Orb時代に開発陣の80%を外国人でチームを構成し、しかも、シリコンバレーやインドなどからトップクラスのエンジニアやプロダクトマネージャを採用し、会社全体でも50%以上を外国人というチーム構成にし、世界最速のプライベートブロックチェーンBaaSであるOrb DLTを完成させた経験から、みなさんの想像力をはるかに超えたリクルーティング能力が求められることを十分に理解している。(僕のリクルーティング能力について知りたい人は「こちらの記事」を参考にしてください。)だから、これを実現しているだけで、OISTはとてもつもなく可能性が高い研究機関なのです。

そして、この多様性の考え方は、次の強みである「学際性」とも通じてきます。

研究分野のタテ割構造を完全に撤廃した「学際性」

以前、このブログでも、「20世紀は細分化の時代、21世紀は統合化の時代」(詳しくは「こちらの記事」を参照)という話をよくしていますね。20世紀は、様々な学問分野が登場した100年でもありました。しかし、後半ごろになって、各分野での研究成果に行き詰まりが出てきました。そこで、登場した新たな研究アプローチが「学際主義」と言われる考え方で、簡単にいえば、いわゆる組織論でいうところのタテ割り構造を完全に撤廃した研究アプローチです。分野を超えて協業的に研究を進めていくことで、新たな科学的発見を促進していくというものです。要するに、カルチャーとして、縦割りがなく、風通しがいい大学院大学ということです。

OISTの場合、建物構造から全てこのアプローチにしたがって設計されています。

OISTのキャンパス2019年時点-恩納村

例えば、OISTには、現在、中央棟も入れると、4つの研究棟があります。日本の大学では、それぞれの研究棟に、それぞれの学問分野が入るのが一般的ですよね。例えば、ラボ1には物理学、ラボ2には生物学などなど。

OISTは全く異なります。ラボ1の中に、複数の分野の教授室と、「ウェットラボ」という実験が可能な環境。そして、「ドライラボ」というデスクワークできる環境が存在しています。また、教授室も工夫されており、教授室は一箇所に集積しているので、教授同士の顔合わせの頻度が必然的に上がるようにデザインされているので、コミュニケーションが発生しやすくなっています。コミュニケーションの発生頻度が増えれば、必然的に分野を跨いだコラボレーションの機会も増えるからです。また、教授の秘書チームも同じ場所に集積しているので、その場ですぐにミーティングを設定して行くことができます。このような細かい工夫が、実際的な学際性を実現可能にしているということです。

そして、この考え方は、学生にも適用されています。OISTは修士と博士が一貫の5年制のみのカリキュラムですが、まず、学生は入学すると、「ラボ・ローテーション」と言って、複数の研究ユニットを3ヶ月のサイクルで渡り歩きます。ここで、本人の中に「学際的な頭脳」を作っていくわけです。と同時に、気づいてもらいたいのは、各ユニットの中の人々とも親しくなります。

すると、どういうことが起きるか?この学生が、実際に研究テーマを決めて動き出すとき、ラボ・ローテーションで仕事をした仲間に声をかけて、分野を跨いだ研究を進めることができるわけです。つまり、いちいち教授などが仲介せずとも、学生が自律的に学際的な研究ができるように狙って、このラボ・ローテーションが組まれているということです。

会社を経営していた人であればわかると思いますが、組織論におけるコミュニケーション・コストを徹底的に下げるための仕組みが、建物からオペレーションに至るまで、細かに実装されているのが、OISTの学際性としての強みです。

そして、この二つをベースにし、最後、仕上げとなるのが、一流のイノベーターに全託するハイトラスト・ファンディングによる研究資金の提供(要するに投資)です。

イノベーターに全託するマイクロマネジメントを完全排除したハイトラスト・ファンディング

日本の大学をはじめとした研究機関の劣化の原因の一つ、「ロートラスト・ファンディング」があります。ハイトラスト・ファンディングの逆です。研究目的も特定し、資金使途なども細かくチェックするという研究開発手法ですね。簡単にいえば、資金の出し手側が色々と細かく口を挟んでくるマイクロマネジメントのやり方です。要するに無駄遣いをさせないという資金の出し手側の意図があるのですが、この発想はイノベーションの世界では「百害あって一理なし」です。なぜか?

逆に、研究者側の自由な発想を奪うからです。まず、資金の出し手側に、ノーベル賞クラスになるかもしれない研究テーマの可能性を見抜くセンスがあるか? 常識に考えてあるわけがないですね。例えば、企業からの研究資金の提供であれば、相手は、一流の研究者に比べて専門知識も創造力も低いサラリーマン的な担当者がついてしまうケースが多い。このパターンは最悪と言えます。

なぜなら、日本人に多い問題の根幹追求をすぐに放棄する「事なかれ主義」感覚からすれば、「意見の食い違い」として喧嘩両成敗的に片付けるでしょうが、シリコンバレーのような世界トップクラスのイノベーションハブをリードしている連中からすれば、「資金提供者側(つまり、投資家側)に問題あり」と判断される内容です。己の大した深い洞察力もない貧弱な分析力で、ノーベル賞クラスの研究内容の方向性など決められるわけがない。本人が、「自分には、それを見抜くセンスがある」と考えているのであれば、その人は、相当、身の程知らずの傲慢な性格の持ち主であると言わねばならない。

ハイトラスト・ファンディングは、OISTの現学長のピーターが、直前にCEOを勤めていたドイツのマックス・プランク研究所でも彼が実施していたファンディングスキームです。

From Wikipedia – マックス・プランク研究所(マックス・プランクけんきゅうしょ)は、マックス・プランク学術振興協会、略称:MPG(エムペーゲー))が運営する、ドイツを代表とする世界トップクラスの学術研究機関であり、前身のカイザー・ヴィルヘルム協会時代も含めて33人のノーベル賞受賞者を輩出する。MPGが運営する研究機関は、2019年5月現在で84に上る。年間予算は18億ユーロ(約2,000億円)。連邦政府および州政府の公的資金で賄われている。前身のカイザー・ヴィルヘルム協会時代にはアインシュタインがベルリン・カイザー・ヴィルヘルム化学・物理学研究所の所長を務めていた。

このファンディングスキームによって、OISTは大成功を収めています。ピーターから、この話を聞いたときに、僕は、シリコンバレーのインナーサークルと同じことだと認識しました。なぜか?

シリコンバレーのイノベーションの原動力となっている著名投資家集団のインナーサークルが形成されて行った背景は、投資家側に起業家としての実績がないものが多く、それが度々、多くの優れた起業家のアイデアを潰したり、場合によっては起業家自体の成長を妨げるような事態を引き起こすことが多かったため、成功した起業家同士が、IPOやM&Aから得た自己資金などを土台に投資家ネットワーク形成することで、新たな世代の起業家に、シリコンバレー流のハイトラスト・ファンディングのスキームを確立していったと言えるからです。その一人は、僕もシリコンバレー起業家時代にプレゼンさせたもらったことがあるビノット・コースラ氏などです。

ビノッド・コースラ(1955年1月28日 – )は、インド・プネー生まれのベンチャーキャピタリスト。米サン・マイクロシステムズ社の共同設立者の一人である。

インナーサークルについては、「こちらの記事」の記事にまとめています。PayPal出身者で構成される「ペイパルマフィア」もインナーサークルの一つです。詳しくは「こちらの記事」にまとめています。

現に、日本のスタートアップ業界でも、ロートラスト・ファンディングが引き起こす問題が多発しており、その典型例は、経産省が2009年に肝いりで立ち上げた「産業革新投資機構」です。ファンドサイズは、3,000億円と日本のVCファンドとしては、過去最大規模で、このファンド自体がさらに金融機関から1兆8,000億円の政府保証付きの資金調達が可能になっているので、合計で2兆円を超える投資能力をもつファンドです。当然ですが、資金の元手は、みなさんが払っている税金です。

From Wikipedia – 根拠法である産業競争力強化法の改正法の施行に伴い、2009年に設立された株式会社産業革新機構から改組され、2018年9月に設立された。前身である産業革新機構が出資決定した案件は、産業革新投資機構の子会社である株式会社INCJが支援を行っている。産業革新投資機構の投資対象となるのは、大学や研究機関に分散する特許や先端技術による新事業、ベンチャー企業の有望な技術、国際競争力の強化につながる大企業の事業再編などである。投資にあたっては、機構内に設置する「産業革新投資委員会」が評価を行い、投資対象の決定をし、委員長は社外取締役が務める。また経済産業大臣が業務を監督し、1年に1度、事業評価を行うこととなっている。なお、機構の設置期間は15年間である。

2018年9月に、なぜ、改組されたか?わかりますか。 あまりにも運用成績が悪いため、当時の経営陣が引責辞任をしたためです。産業革新投資機構の問題点の一つが、ロートラスト・ファンディングモデルです。実際の例の話をしましょう。

僕の友人のテックベンチャーも出資を受けたことがあるの直接聞いている話ですが、彼らから出資を受けた場合、その金を入れておく専用の銀行口座を開設する必要があり、かつ、資金使途も毎月、こと細かにチェックされます。強烈なマイクロマネジメントをしてくる、ものすごいIRコストの高い投資家なのですね。彼は、二度と資金調達したくない先だと振り返っていました。つまり、投資家が起業家を殺しているのです。

僕はその話を聞いていたので、産業革新投資機構には会いに行きませんでした。シリコンバレーのインナーサークルを知る僕としては、こんな投資家から金を引っ張ってきたら、ガミガミ言われて自由な発想ができず、Orb DLTを完成させることなどできない、時間の無駄だと判断したからです。

つまり、ほぼ同じタイミングでスタートしたOISTの経営スタイルと比べると、産業革新投資機構の経営スタイルは、全く持って真逆な運用モデルを採用した結果の顛末と言えます。2018年9月に改組されたのちも、別にOISTのようにマネジメント層に多様性を入れることもなく、「昭和」をひきづったままですから、成績も絶対によくなることはないでしょう。こうやって、僕らが払った莫大な規模の税金は、大して頭もよくない凡人エリートによって蒸発して行っている、これが「失われた30年」の実態です。

ですから、結論として、同じタイミングで走っているOISTと産業革新機構のこの桁違いの成果の差を見れば、いかにイノベーションを起こす上で、ハイトラスト・ファンディングが重要かは、火を見るより明らかと言えます。

投資金額もきちんと見てもらいたいのですが、産業革新機構には、10年で3,000億円近い税金を投入して大赤字かつ全く世界的なイノベーションも生み出せていない中、OISTは更に短い9年で、かつ、産業革新機構の1/3程度の計1000億円の投資額で、世界9位の研究機関にランクインするところまで到達した。1/3のコストで、世界にインパクトを与えるトップクラスの研究機関が出来上がったのです。だれの目から見ても、論より証拠と言えます。

結果を出しているものに、より多くの資金とリソースを投じるには、一切、反論が許されない世界共通の経営の黄金律ですね。そういうことです。

以上、みなさんの参考になれば幸いです。

関連記事