マスター・オブ・スケール – VMWare創業者兼CEOダイアン・グリーンのインタビュー#8

ホフマン:これこそ、プロダクトをスケールさせていく上で必要な通過点なんだ。君が思い描く夢物語は一旦横においておいて、君のユーザーが、今、まさに必要としているものをしっかりと作り上げていく。君が、これらのユーザーにとって不可欠の存在になっていけばいくほど、彼らは、君のその壮大なビジョンに対して耳を傾けてくれるようになる。

そうしていくことで、やがて、君は、彼らにスイス・アーミー・ナイフを売っていくことができる。

グリーン:正に、年間売り上げ100億円にむけた道のりに乗ったという感じだった。毎年100%、つまり2倍の成長率に入り、利益率も高かった。

ホフマン:2003年、ダイアンは、共同創業者でもある彼女の夫と共に、VMwareをEMCに625億円で売却した。そして、五年後に、彼女はCEOを降りた。その後、2012年、今度は、彼女はGoogleの取締役会に参画した。

しかし、幾度となく彼女は、ある一つのことを考えた。VMWareがスケールするほど、より大きく成長することができるだろうと。そして、彼女は、その脇道の世界をその後も考え続けた。そして、その市場はやがて、「クラウド」と名付けられ、巨大な市場となっていく。

グリーン:私たちは、ESXサーバーと名付けていたわ。ESXとは、”Elastic Sky”という意味からつけているんだけど、やがて、世の中の人たちは、それを”クラウド”というようになったわ。だから、VMWareも当然、クラウド市場のためのソフトウェアという方針を打ち出した。そして、このクラウド市場は、本当に私たちの想像を遥かに超えた市場規模だったの。でも、このような市場がいずれ出てくることだけは確信していたわ。

ホフマン:ここで、彼女が、まだ、世の中がクラウドと言い出す前に、彼女が、どのような世界観を描いていたか紹介しておこう。”いい、全ての顧客情報は、仮想マシンの中を動く。そして、開発者は、その仮想マシンに対してアプリを開発しディプロイする。この結果、もうソフトウェアのことを考えなくてよくなるのよ。ハードウェアのことも考えなくてよくなる。エンドユーザーは、使っているアプリのアップデートなんて考える必要はなくなる。全てのコンピューター資源は、クラウドの世界にいくのよ”

彼女は、この世界観を、”Elastic Sky”と表現していた。正に、今のクラウドそのものだ。とてつもない規模の市場となっている。

僕は、以前に、投資家と起業家がこのようなアイデアを話しているのを聞いたことがある。”僕は、このテクノロジーXについて物凄いアイデアを持っていたんだ。ただ、タイミングがこのテクノロジーが出てくるタイミングより少し早かった。けど、そのアイデアを持っていたんだよ!”と。時にこれは正しい考え方だ。例えば、ダイアンのケースは正にそこに当てはまると言えるだろう。ダイアンのお陰で、クラウド市場は立ち上がることができた。彼女の仕事が正にブリッジとなって。

しかし、ここにダイアンの真骨頂がある。彼女は、その大きなアイデアを決して放ったらかしてことはしなかったということ。今日に至るまで、彼女はピボットを続けながら、その大きなアイデアをいずれ必ず形にするという人生を歩んできた。それこそ脇道の起業家道と言える。

グリーン:昔は、Googleで、今はAlphabetの取締役なんだけど、Googleのクラウドチームのメンバー、例えば、Ursとかとプロダクトについて色々と話をするわ。

天の声:Ursは、Googleの八番目のエンジニアで、Googleの一人目のVP of Engineering。現在は、GoogleのインフラチームのSVPです。

グリーン:Ursと私の家は、近いから、土曜はいつも一緒に犬の散歩をしながらよく話をするわ。

けど、もう犬も相当歳をとったから、あまり遠出はできなくなってしまったけど。それぐらい長い間、彼とは一緒に犬の散歩に行ったということ!

私は、Googleには、クラウド事業を専門にみる人材がきっと必要になると言っていたわ。そして、彼らは人材選びにはとても慎重で、やがて私に、”君が探してくれないか”と。私は、”もちろん、喜んで”と。

それで、知り合いの中から、とても優秀な人を推薦した。そして、CEOのサンダーに、”彼を雇った?”と聞いたら、”いいや”と回答が返ってきたから、私は、”それなら、私が手を動かすべきね”と。すると、彼らは、”うん、それがいいと思う”と。

ホフマン:こうして、ダイアンは、Googleクラウド部門のSVPになった。しかし、この仕事を引き受けるに当たって一つ条件をつけた。

グリーン:条件は、営業、マーケティング、開発部門を一つグループにしてマネジメントするということ。当時はそれぞれ別れていた。これが私が出した条件。

ホフマン:改めていうが、ダイアンは、Googleがもつクラウド事業へのポテンシャルに対して、非常に強気だ。すでに、Gmail, Google Docs、Google Driveなどのプロダクトを持っているが、これは始まりにすぎない。企業のITが全てクラウド化することを想像したら、この事業機会の規模はとてつもない。つまり、彼女は、常に、スイス・アーミー・ナイフを作り上げるという思想は全く変わっていない。

 

グリーン:今、私たちは、世界中のあらゆる企業に、それは地理的にもまた組織のタイプもとわず、アクセスすることができるわ。だからこそ、この市場の可能性にとても興奮している。

ホフマン:彼女のキャリアを振り返って見るとわかることだが、ダイアンは、少し違うことを一つやる。それは、以前に比べてよりベターなプランを練るということ。

グリーン:そうね、よくプランを練ることをするわ。正直、それしかしてないかもしれない。

 

ホフマン:ここに一つ予言を残しておこう。彼女は、今回のGoogleのクラウド事業でも同じくプランをしっかりと練っているだろう。しかし、彼女のもっともスケールするアイデアは、きっと「脇道」から出てくるはずだ。
レイド・ホフマンでした。ご清聴ありがとうございました。

僕の所感:

クラウド市場がインターネット業界でモメンタムを得るようになったのは、2006年のAWSの登場からですね。ところが、ダイアンは、その10年以上前の90年代からVMWareですでにその構想を持っていた。その時は、まだインターネットの黎明期。ほとんどの起業家も投資家も、目先のネットサービスにばかり目を向けて、その栄枯盛衰が日通り終わってから、クラウド市場の可能性に気付き始めた。そして、そのことを理解したドットコムバブルを生き残った1社であるGoogleは、ダイアンに白羽の矢を立てて、Googleのクラウド事業を任せることにした。

ここでは、レイドは、それを「脇道」と表現していますが、僕は、「本質を見抜いた道筋」と言いたいです。なぜなら、新しいテクノロジーがもたらす変化に対して、一過性のものに目を向けるのではなく、本質的な変化とその変化を起こすに必要な解決策を作り上げることこそが、作り上げる「プロダクトの永続性」に関わる話だからですね。

これは、僕が仮想通貨・ブロックチェーンで起業したときも同じですね。ほとんどの日本の起業家は、リスクアセットとしての投資やトレーディングのための取引所ビジネスで、小銭稼ぎするようなプロダクトを作って「自分たちは、イケている」と言ってましたが、今や、優れたDEXプロダクトが市場に出てくることで、彼らの存在はますます小さくなって行っています。やがて、かつてのインターネットにおけるYahoo!と同じで、忘れられていくでしょう。

しかし、僕は、そのことを理解して、「ステーブルコインこそ、巨大な市場になる」と考え、Orb DLTを開発していました。このように考えた起業家は、日本では僕だけでしたね。USDにペッグされたUSDTやUSDCなども一過性のものにすぎず、本質的なステーブルコインのプラットフォーム。つまり、通貨バスケット制度や商品バスケット制度などをブロックチェーンモデルで、更に非中央集権的な運用モデルで作り上げることで、ブロックチェーン産業の中でも、最大の市場の一つになると考えました。これは、現在のUSDTの発行済み時価総額が、Ethereumにつぐ1兆6,000億円超になっている点を踏まえれば、ある程度、想像つくことですが、仮想通貨が日常決済でつくわれることを考えれば、こんなレベルではないですね。僕がその中でも注目しているのは、MakerDAOです。

また、もう一つは、彼女が、VMWareを立ち上げる中で常にいっていた「顧客の最大のペインポイントは何か?」とおいうこと。よく、中途半端な起業家やVCが、「Nice to Haveではなく、Must Haveにならないといけない」といいますが、ろくにプロダクト開発もしたことない連中の言い方です。プロの起業家は、常に「ペインポイント」で考えます。ペインポイントが大きければ大きいほど、それはそのテックスタートアップにとって、理想のGo-to-market Strategyになるからです。ダイアンは、その点について、非常に忠実にかつ精密に市場を見ていたことがエピソードから見えてきます。簡単にいえば、バンドエイドで治るレベルのペインポイントなのか、集中治療室に持ち込まないと治らないレベルのペインポイントなのか?ということ。後者のペインポイントを解決できるプロダクトの方が生き残るのは当然ですし、そのようなレベルのペインポイントを抱える初期のターゲット市場を見出すことこそ、起業家にとっての0to1の最重要タスクの一つということです。

以上、みなさんの参考になれば幸いです。

 

関連記事