マスター・オブ・スケール – スラック創業者兼CEOスチュアート・バターフィールドのインタビュー#10

 

ホフマン:スチュアートは、既存のビジネスを全て畳むタイミングだとわかっていた。素晴らしいストーリーでチームを新しい方向にリードしていくことが最重要だった。ホテルのバスルームで吐いたかどうかなどはどうでもよく、君がストーリーの内容を作り上げ、そして、そのストーリーを語りかけることで、共同創業者、従業員、そして、投資家を一つにして、新たな方向性へと導いていくんだ。

そして、君は、かつて一緒に取り組んだメンバーが君の元に戻ってくる様を見て、驚くことだろう。Tim Leflerを覚えているかい?スチュアートが首にしたエンジニアだ。

LEFLER:スチュアートからメールがきた。当然、昔、自分をレイオフした自分だったから、用心深くはなる。しかし、スチュアートとのカフェを断る理由はないと考えた。彼は、Slackで起きていることを全て話おえた後に、”戻ってこないか。君と一緒のこのプロダクトをやりたいんだ”と。

妻に相談した。妻は、リスクについては、僕とまるで真逆の感覚の持ち主だ。彼女はこう言った:”もしあなたが、今の仕事をやめて、Slackに入って、もし、Slackが失敗した場合、あなたは、また新たな仕事を見つける必要がある自分に対して、どれぐらい悲しいと思うの?”と。

僕は、”そうだね、もしSlackがダメだったら、別の仕事を探さないといけないね。そして、その仕事は、多分、今の僕がやっている仕事より条件は悪くなるだろうね”

しかし、彼女はこう切り返してきた: “じゃあ、今の仕事を続けて、もし、Slackがビックヒットになったら?”

僕は、こう答えた:”うーん、それは相当嫌な想いだね”と。これが、決定的だった。だから、僕はSlackに入ることにしたんだ。

ホフマン:こうして、Timと彼の家族は再びサンフランシスコに引っ越した。そして、彼はSlackに戻って、開発現場を見て驚く。そこには、彼同様に、かつてレイオフされたエンジニアが何人も再び戻ってきていたんだ。

LEFLER: みんな僕と同じ理由で戻ってきたんだ。その話を聞いたとき、なんか、チーム再結成、活動再開という感じがして、とても興奮したよ。

ホフマン:この後のスチュアートと彼のチームの成功は見ての通りだ。改めて、心に留めておいて欲しいのは、ピボットを踏む際は、既存のビジネスを全て捨てなければ決してそのピボットは成功しないということ。

レイド・ホフマンでした。ご清聴ありがとうございました。

 

僕の所感:

スタートアップの初期段階で、ピボットを踏むことはよくあることです。僕も、経営していたOrbでは2度、ピボットの経験があります。元々はBitcoinの決済事業から入りましたが、ステーブルコインの重要性を感じて、2015年に、PoS型のBaaSをリリースし、ステーブルコインソリューションを開発しました。しかし、その後、決済市場の技術要求に対応するため、パブリックブロックチェーンからプライベートブロックチェーンに切り換ええた、Orb DLTを開発し、そこにステーブルコインだけでなく、BaaSのように様々なアプリを実装できるAPIとライブラリ機能を備えたプラットフォームソフトウェアに発展させることで、0→1のフェーズを超え、SBIへ売却しました。まず、多くの起業家にとっての課題は、「ピボットを踏む勇気」が必要であることですね。Zyngaのマーク・ピンカスも言っているように、ダメなアイデアを捨てる勇気がない起業家が多いです。この度胸がない起業家は、日本人に多いですが、「シリコンバレーで市場性が証明されたプロダクトでしか勝負しない起業家」です。これでは、金持ちにはなれても、世の中を変えることはできません。世の中を変えるとは、市場性が証明されていないテクノロジーを世に送り出すことだからです。

次に、ピボットを踏むと決めたら、そのためにチームを動かす努力は抜かりなくやることです。ここが最もキツイところと言っていいでしょう。かなりシンドイです。Orbのときも周囲からは非常にキレイにやっているという評価をしてもらっていましたが、正直、相当しんどかったですね。しかし、まだ市場があるかどうかわからないテクノロジーの世界に挑むテックベンチャーの世界においては、このレベルの苦労は覚悟しなくてはなりません。その点は、スチュアート氏のエピソードからもわかると思います。

スチュアート氏のFlickrとSlackの話は又聞きで聞いたことがあり、「ピボット踏んで、あれだけ成功するのはすごいな」と思っていたのですが、今回、改めて、全ての話の経緯を聞けたことで、改め、彼の起業家としての能力の高さに感銘を受けました。

以上、みなさんの参考になれば幸いです。

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