マスター・オブ・スケール – InterActiveCorp会長バリー・ディラーのインタビュー#11

 

ホフマン:こうして、最大のヒット作の「シンプソンズ」が生まれた。想像に難くないと思うが、シンプソンズの制作にゴーサインを出した成果を受けて、以後は、バリーがGoサインを出す作品は全て制作されて行った。しかし、そうはいいながらも、彼は常に社内で戦い続けていた。

まず、彼が戦ったのは、いわゆる著作権で作品を保護することで、他の競合ネットワークが真似できなくするという発想だ。無限に学び続ける人は、決して競合を見ることはなく、こう言う:”僕らの賭けにリスクヘッジをしておくため、この作品のコピーしたものを作っておこう”と。まず「シンプソンズ」の成功要因を分解した。それが、温かい家族愛に基づく連続ホームコメディが、その成功要因だとわかると、そこから一気に新しい方向性を打ち出す。つまり、逆に不快で、やかましいファミリーコメディを作った。こうして、ヒット作が生まれる度に、テイストを変えた作品を新たに生み出して行った。バリーに言わせれば、それ以外の作品は、全く作る価値がないと言うことだ。

ディラー:このやり方は、誰にも真似できないという信念がある。

誰でもトライするのは自由だ。けど、そこには、近道は全く存在しない。真の想像力と言うのは、極度の疲労状態からこそ生まれてくるものだ。だから、君が、チームメンバーを部屋に招き入れたら、まずは、彼らを限界レベルまで持っていくことだ。

すると、真の想像力がチームで発揮されるタイミングがくる。それは、3時間後のときもあれば、24時間後のときもあれば、15日目のときもある。いずれにしても、必ず、その瞬間はやってくる。そして、その瞬間から価値あるものが生まれてくるんだ。

そして、この点に関して、気づくべき重要な点は、そこにはリラックスするような世界観はないと言うこと。むしろ、ストレスだらけの世界だ。特に、時間はストレスそのものだ。しかし、そこにもいくらかの平穏な瞬間はある。その平穏な瞬間とは、僕らに、何か明らかに今までと違うものを見つけ出させてくれる瞬間のことだ。

ホフマン:第4のTVネットワーク、190もあるTVチャネルから、どうやって、ユーザーにそれを選ばせるか。普通で考えたら、とてもではないが取り組もうとは思わないアイデアだ。しかし、バリーにはもう一つ問題があった。自分の考えたアイデアが、明らかに優れたものであることを理解すると、彼はまた飽きてしまう。しかし、今度は、単に彼の仕事に対してだけではなかった。ストーリーテラー自体のビジネス、そのものに飽きてしまったんだ。

ディラー:映画とTV業界に18年関わって、そして、FOXの立ち上げを8年やって、もう脚本に目を通すのは飽きたんだ。

ホフマン:ここで、バリーの言ったことに注目して欲しい。彼は、自らの卓越した直感力で、物凄い可能性を持った脚本を発掘し、そして、新たなメディア帝国を作り上げたきた。しかし、その絶頂期に到達したタイミングで、彼は、2度と脚本は見たくないと考えたんだ。

僕も知っていることだが、連続起業家は、常に、新しい挑戦を求める。しかし、多くの場合は、その挑戦は、自分の専門ドメインそのものか、それに近しい領域だ。たとえば、僕の場合でいえば、オンラインのデートアプリから、PayPal、そしてLinkedinと手がけてきたが、常にそこに共通していることは、人の繋がりに関わるネットワーク効果を作り出していくことだ。全て、共通項として、デジタル時代のネットワーキングと言うテーマがある。これが、僕の専門だ。

一方、バリーは、本人にとって、全く未開拓の分野に常に挑む。そのために、新たな学習モデルを自らの中に構築していく必要があるため、このような挑戦モデルで生き残れる連続起業家は、稀だ。彼は、インターネットの世界を見たとき、そこで、ユーザーが今まで彼が取り組んできたコンテンツの世界のように、一方的に流れてくるコンテンツを受け身で消費していくのではなく、コンテンツを通じて、お互いにユーザー同士がコミュニケーションしていく世界、より深く関わりあっていく世界を見たとき、彼は、その世界観に釘付けになった。

ディラー:僕らはずっと、コンテンツの作り手は一方的にコンテンツを配信するばかりで、受け手は、一方的に見ているばかりだった。そこに、お互いにコミュニケーションする世界が出てきたわけだよ。見た瞬間、「なんじゃ、そりゃ?」という具合さ。

ホフマン:まさに、真っ白なページの世界だね。まだ何もスタンダードが確立されていない世界。

ディラー:その通りだ。

ホフマン:そうですね、まさに、完全な空白地帯。

ディラー:それこそ、過去最大の空白地帯と言っていいね。

ホフマン:そして、そこで、一体何が、バリーを虜にしたインターネットのユーザー体験だったか?彼は、この過去最大の空白ページを埋めることはできるのか? 知っての通り、彼は、無限に学び続ける人だ。彼にとって、トライしない理由はなかった。次のエピソードでは、その点に触れたいと思います。

レイド・ホフマンでした。ご清聴ありがとうございました。

僕の所感:

「無限に学び続けることができる人」、これは、起業家とサラリーマンの違いを決定づける最大の要因だと考えています。僕の表現に変えると、「過去の成功を否定できるかどうか」という表現にもなると思います。真の起業家は、過去の成功を否定することができます。

バリーさんも素晴らしいですが、僕のその代表格は、やはり、スティーブ・ジョブズです。iPodを成功させ、その成功体験を捨てて、iPhoneを成功させる。つまり、彼は、iPodの成功に全く執着していないということです。サラリーマンからすれば、iPodの成功だけでも素晴らしいことですが、真の起業家はそこに執着しない。執着しないから、イノベーションのジレンマを乗り越えていけるわけですね。つまり、自らを否定し、脱皮し、新たに生まれ変わることができる。

サラリーマンは、その精神性からして、この考えができない人材のことをいいます。なぜ、そうなるかと言えば、次のキャリアを常に、手前の成功をベースに考えるから。積み上げていくことしか考えていないからです。だから、ここでバリーさんの成功体験にあるように、過去や現在のエンタメ業界のあり方に、疑問をもとうとはしない。持ってしまうと、自らのキャリアを否定することになるからですね。

よくいう「私は、これだけのことをやってきたんだ。どうだ。」ということを言う人は、完全、サラリーマンタイプの人材ですね。起業しても絶対に成功しません。無限に学び続ける人、つまり、バリーさん同様に真の起業家と言うのは、「私は、これだけのことをやってきた。しかし、次は、それ以上のこと、新たなに挑戦してみよう」と言う価値観の人だと言うことです。そこに、自らの無限の成長の可能性が開かれていることを深く理解していると言ってよいでしょう。

私の場合は、起業家として、「ポスト資本主義社会」が常にそのテーマにありますが、常に戦略を変え、アプローチを変え、行動を変え、その社会の実現に向けて動いています。それは、このテーマに関するプロジェクトを手掛ける度に、結果の出方を見ることで、そこに学びがあるから。その終わりなき学びを通じて、よりハイレベルなプロジェクトに挑戦していく。そうやって、人は、無限の成長の可能性が開かれれると言うことだと思います。

次回のバリーさんの二つ目のエピソードも楽しみです。

以上、みなさんの参考になれば幸いです。

関連記事