マスター・オブ・スケール –Zyngaの共同創業者マーク・ピンカスのインタビュー – #10

ホフマン:全ての起業家は、頭がいいかどうかとは関係なく、このような世界の中で生きていると言っていい。周囲からは正しくないと言われる中で、自分自身が正しいと考えるための特効薬は、「データ」だ。そのデータは、まさにマークがそうしたように、タワーレコードの前で、歩く人々に尋ねた質問から得られるデータかもしれないし、何百人というデータエンジニアを雇うことから得られるデータかもしれない。

Zyngaのゲームユーザーが増えても、マークは、このアイデアをすぐに潰すという哲学を失うことはなかった。しかし、彼は、Zyngaをスケールさせていく中で、この勝利の方程式を維持することは、なかなか大変なことであることを認識した。

それで、マークが、この課題をどう解決したかって? Zyngaの組織の拡張と共に、増え続けるテスト対象のアイデアに対して、どのように高速なペースを維持したか? 正直に話すと、これはかなり議論を呼ぶ話だ。かなり議論を呼ぶ可能性があるので、マスター・オブ・スケールのコンテンツとしても、この話だけ「ビー!」の音で消そうかと思った。僕の判断基準もテストした方が良さそうだね。

ホフマン:おっと、これは間違いのボタンだ。もう一度試そう。

ポケットベル:「ビー!」

ホフマン:OK、大丈夫だね。よしやろう。テープを回して。

ピンカス:僕のスケールさせる上での最大の学びは、「スケールするなんて、クソッタレってことだ」

ホフマン:ん?今、なんて言ったの?

ピンカス:クソくらえだよ。

ホフマン:彼は、確かにそう言ったんだ。スケールさせる世界で、全くもって逆説的な理論だ。

「スケールするなんて、クソくらえ」と言っているからと言って、マークは、Zyngaをスケールさせないと言っているんじゃない。彼が言っていることは、スケールさせていく中で、君の最大のゴールを見失うなということ。それは、顧客を感動させることだ。

ピンカス:君の顧客にとって、最も重要なことは、彼らは、驚きような体験を期待しているということ。それがなければ、彼らは決して君の描く世界についてきてくれない。君のお気に入りのハンバーガーショップがあったとして、そのお店の裏で、オーナーが、君の大好きな最高のハンバーガーを従業員と作っている。しかし、君にとっては、彼がどうやってその最高のハンバーガーを全国展開するかなんて全く気にしないだろ。そういうことだ。

ホフマン:マークは、人によっては、ユーザー体験に影響を与える”取るに足らない小さな意思決定”に対して、とても丁寧に関わろうとする。なぜなら、マークは、その小さな意思決定が顧客に最大のインパクトを与えることをよく理解しているからだ。そして、彼は、彼の会社の全員にこの点について同じ感覚を持って欲しいと考えている。

ピンカス:僕は、僕のチームに、ユーザーに提供するプロダクト体験に対して、ピクセルレベルで気にかけて欲しいと望んでいる。モバイルゲームの世界なんて特にそうだけど、本当に全てのピクセルレベルやナノセカンドレベルの品質に拘って欲しいんだ。

ホフマン:プロダクトのディテールに対して、マイクロマネジメントをすることは、とても重要なことだ。なぜなら、それこそが、人々を興奮させ、君のプロダクトを愛するキッカケを与えるからだ。このことへの執着を君の組織全体に浸透させる努めることだ。君の顧客を感動させるために、君は、アイデアを試し、そして潰す行為をしているのだということを忘れないように。

実践と共に、君は、悪いアイデアを潰すことに対して、自然とできるようになって行くだろう。この冷酷に直感を殺して行くという感覚こそ、君の狙う大きなチャンスに通じるクリアな道なんだ。

君がこれらのことを実践に写すことができれば、君のプロダクトが、すごいハンバーガーを作ることか、すごハンバーガーチェーンを作るゲームを作ることかにかかわらず、僕は、君の顧客が君の描く世界にしっかりと入ってきてくれると保証しよう。

レイド・ホフマンでした。ご清聴ありがとうございました。

僕の所感

Zyngaのゲーム業界に与えた影響は、正にグローバル・イノベーションです。僕も間接的に関わったことがあるので知っているのですが、Zyngaが登場するまでのゲーム業界は、売り切りモデルが主体、オンラインゲーム自体もマニアックなものが多かったですね。なので、働く人が暇な時間を見つけてちょっと楽しむというのにはハードルが高過ぎました。中毒レベルでハマるように設計されたゲームばかりだったからですね。その結果、売り切りタイプのゲームは、ドラクエやFFに代表されるよう過去のビックタイトルシリーズしかリリースしなくなっており、ユーザーもマニアばかりになっていた。そこに、Zyngaが、FirmVilleに始まり、少しの暇な時間でも楽しめるゲームタイトルをいくつも出したことで、このモデルをコピーするゲーム会社が続出しました。日本で人気が出たパズドラやモンストなども、Zyngaが作り上げたゲーム開発手法からインスピレーションを得て開発されたゲームです。そして、今や、ゲームは次世代SNSと言われるほどのレベルになってきました。これらの起点となったZyngaはすごい存在だと思います。

マークにとって、ソーシャルゲームを手掛けるZyngaは、自らの起業哲学ととても相性がよかったように思います。また、僕自身の起業家の哲学としてもわかるのですが、マークほどではないにせよ、創業したばかりの起業家にとって、「ダメなアイデアをすぐに潰す」という感覚は非常に重要だと思います。僕もこの経験を何度もしているからです。よくベンチャー業界では、「ピボットを踏む」という言い方もします。創業期において、この嗅覚はすごく重要です。「どこに市場があるか。どの市場こそ破壊的か。」それが、このエピソードのはじめに語られているエジソンが蓄音機に辿りつくまでの話です。僕は、これを「アイデアを鍛えて行く行為」と呼んでいます。興味のあるテーマに関わるアイデアをいくつか試しながら、最も強力なアイデアに辿りつく。妄想好きな日本人の多くは、それを頭の中でこねくり回しているケースが多いのですが、起業家としては絶対にやってはいけない行為です。ユーザーからの実際のフィードバックを得ていないアイデアは、単なるマスターベーションに過ぎないからです。アイデアを思いついたら、何かしらの形ですぐに試して、フィードバックを得て、次の進み方を考える。それが起業家としての優れたアイデアを作り方だと思います。

以上、みなさんの参考になれば幸いです。

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