今日は、Balancer(バランサー)のトークンBALの投資分析についての話です。
こちらの内容はYouTubeにもまとめています。日本語字幕付きです。合わせて参考にしてください。
早速、はじめていきましょう。
まず、僕のポートフォリオ戦略における、BALの該当カテゴリは、こちら4つ目のT2T DEXの領域ですね。
DEXは、仮想通貨市場にとって非常に重要な役割を果たす領域だけに、競合も多いです。現在、仮想通貨の売買は、中央集権型取引所が主流ですが、5年以内には、DEXが主流になると見ています。
僕のポートフォリオ戦略について詳しく理解したい方は、僕の「ポートフォリオ戦略」に関するブログを参考にしてください。
分析視点は、いつもの6つの視点、つまり、ペインポイント分析、プロダクト分析、チーム分析、チームの実行力、トークンエコノミー 分析、そして、ハイプサイクル分析です。
ペインポイント分析
一つ目、ペインポイント分析です。ここは2つあります。
まず、一つ目のペインポイントです。
それは、ユーザーは、一つのアカウントで、たくさんのアルトコイン投資をやりたいということですね。
わかりやすい事例として、ブロックチェーンはインターネットの次の破壊的テクノロジーとして話に登ることが多いので、インターネット企業を見てみたいと思います。
現在、インターネット産業には、グーグル、フェイスブック、アマゾンなどをはじめ、1,000億円の時価総額を超える会社が、世界に数百社います。 単純に考えれば、ブロックチェーン市場にも同じぐらいのプロジェクトが出てきても全く不思議ではありません。
しかも、創業間もないベンチャーに投資できるのが仮想通貨投資の魅力の一つなので、将来的に生き残る会社が結果的に数百社に絞られてくることを考えれば、母集団のベンチャーの数は数千から数万に登ることは想像に難くありません。ベンチャーはたくさん倒産しますかね。
しかし、今の仮想通貨取引所は、使っている人はわかっていると思いますが、取引所によって上場されている銘柄に違いがあったりします。二つの取引所にそれぞれアカウントを持つならまあガマンできますが、これが4つとか5つとかになってくると正直、かなり不便です。
ですから、DEXにはこの問題をきちんと解決することが求められているわけです。
そして、二つ目のペインポイントです。それは、中央集権型取引所のハッキングリスクの高さです。
中央集権取引所は、ハッカーに狙われやすいです。仮想通貨取引所は、過去、合計で1500億円近いハッキング事故を起こしており、すべて、中央集権型の取引所で発生しています。なぜか?
こちらは、DEXプロトコルの一つ0xのホワイトペーパーからの抜粋ですが、要するに、中央集権取引所は、一つのシステムにユーザーが保有・または売買する仮想通貨をプールして持っているため、一度のハッキングで、何十億という規模のお金が手に入る可能性があります。
だから、ハッカーは狙うインセンティブがあるのですね。 一方、DEXはこれとは全く異なります。ユーザーのウォレット単位で保有する仮想通貨が、分散しています。
このレベルまで分散していると、ハッカーにとっては、ハッキングする意欲が損なわれます。なぜなら、一つのウォレットアカウントをハッキングする労力は、一つの中央集権型取引所をハッキングする労力と同じなのに、手に入る可能性通貨の量が個人保有レベルだからですね。
しかも、どのウォレットのどの仮想通貨がどれぐらい保有されているかは、アタックしてみないとわかりません。 このような状態にあるDEXを「Non-Custodian」型、つまり、カストディーサービス(保管サービス)を持たない取引所システムと呼んでいます。
ですから、DEXに求められるペインポイントをまとめると、
1つは、ユーザーは、一つのアカウントで、豊富かつ流動性の高いアルトコインの売買ができる環境を求めている。
もう一つは、カストディーサービスを持たないシステムである。
ということです。
この点を踏まえて、次のプロダクト分析に移っていきます。
プロダクト分析
まず、詳細の話に入る前に、簡単に、Balancerの創業からの歴史を話します。
イーサリウム創業者のビタリックがRedditに書いたDEXに関するコメントにインスパイアされ、BlockScienceのメンバーが中心になって2018年に創業されています。Uniswapとほぼ同じタイミングですね。
2020年1月には、BALトークンが、ガバナンストークンと流動性プロバイダーのインセンティブとして発行が開始されます。 その後、2020年3月にCoinFundなどをリードイベンスターとする3億円のシードラウンドを実施します。
では、ここから、いつものバリューカーブ分析に入っていきましょう。
比較対象として、DEXとして最も近い、UniswapとCurveFinance、そして、テクノロジーが異なる0x、最後に中央集権型取引所の代表格であるBinanceを入れています。
Uniswapとの比較が最も、重要なのですが、この流動性プロバイダーの資産提供要件と、そして、報酬として受け取れるフィーが仕組みの違いが、最大のポイントになると見ています。 僕は、Uniswapの方がアーキテクチャとしてスケールすると見ていますが、その点について詳しくお話しします。 この二つの性質を理解するのは、まず、UniswapとBalancerに共通しているDEXの価格決定モデルについて話をするのがよいです。
こちらをご覧ください。
中央集権型取引所は、この左図にあるように、シンプルにいうと、買いたい人と売りたい人が、それぞれの希望売買価格と希望売買量を注文し、それを売買板に登録し、この中央値が最新値段として決まっていくシステムです。注文は、指値と成行の両方を出すことができます。 一方、Balancerの場合は、成行しか出すことができません。
そして、価格の決定は、以下のようにして決まります。 例えば、ETH/DAIのペアがある場合、当然、そこには、2つのトークンの流動性供給者が存在します。その総合計が、ETHのプールが10,000ETH、DAIが、1,000,000DAIとします。
すると、シンプルには、価格は、このプールサイズの比較で決まります。ですから、1ETH=100DAIとなります。 ただし、プールに預けられているそれぞれのトークン量は常に、ユーザーの活動に応じてダイナミックに変化していいくため、価格もダイナミックに動きます。 この価格決定メカニズムであるからこそ、オーダーブックが存在しないので、指値ができないのですね。
いずれ、指値を可能にするイノベーションも起きる可能性もあるとは思います。
ただし、この価格決定メカニズムであるからこそ、Balancerに参加する流動性供給者が抱える潜在リスクが存在します。 インパーマネントロス(未確定損失)と呼ぶものです。
流動性供給者のインセンティブは、Blancerが設定している売買手数料の一部を、BALトークンの形で報酬としてもらえることです。 しかし、そのインセンティブも、インパーマネントリスクを理解した上でないと実際には実質儲かっていない状況に陥ることがあります。
詳しい理解は、数字ロジックのリテラシーが一定レベル以上ないと無理なので、ここでの説明は省きますが、このリスクが生まれる波形には、先ほどの価格決定メカニズムの影響があります。
このプールサイズの比較による価格決定アルゴリズムは、流動者供給者が、実際に自分の保有する仮想通貨資産を流動性プールに預けてから、価格が、変動するほど大きくなります。 実際の想定値は、こちらのUniswapのホワイトペーパーにまとめられています。
例えば、流動性を提供してから価格が、1.25倍%以上変化すると、流動性プールに預けずに、ただホールドしている状態に比べて、追加で0.6%の損失が発生します。 これはまだ小さい方で、仮に価格が5倍以上に下がるか上がるかした場合、25.5%の追加の損失が発生します。 最も理解しておくべきことは、この追加損失リスクは、価格が上昇しても下落しても発生することです。 ただし、誤解してはならないのは、この損失が確定するタイミングは、あくまで、あなたが、自分のトークンをBalancerのプールから引き上げるタイミングで確定します。
ですから、現物を預けているわけですから、価格が実際に上昇している場合は、損失自体は生まれていないものの実際にETHを保有してるよりは損をしていますから、この損失分を上回るだけのインセンティブがもらえないと、ユーザーがBalancerに流動性を供給しようとは思わないという理解が必要です。
そのインパーマネントロスの性質を踏まえると、ステーブルコイン同士のペアであるDAI/USDTなど、ボラティリティの低いペアが、現時点で最もリスクが低く、収益性の高い流動性マイニングの対象になると見ています。 例えば、Curve Financeはステーブルコインペアにフォーカスした市場参入戦略を取っていますね。
この理解をベースに、UniswapとBalancerを比較してみましょう。こちらをご覧ください。
まず、両者ともイーサリウム上のトークンのみが取引対象です。 次に、流動性プロバイダーが提供できるトークンの数は、Uniswapが2つと限定的である一方で、Balancerは8つと多いです。 そして、ここから大事ですが、流動性プールに預ける際のルールは、Uniswapは、預ける対象のプール(例ETH/USDT)に対して、ペアのトークンを、預ける時点の価格に応じて、それぞれ1:1の比率になるように預けるのですが、Balancerにはその制約条件が課されていません。
Uniswapがこのルールを貸しているのは、インパーマネントロスを極力抑えることが目的です。その点から、Balancerの方が、よりボラティリティが上がりやすく設計されているように見えますが、Balancerは、この性質は、アービトラージトレーダーが活躍することで特に問題にならないという視点に立っています。
そして、トレーディンフィーも、Uniswapは、全プールに対して一律で共通の手数料を決めていますが、Balancerの場合は、流動性プールを立ち上げたクリエーターが、特定の範囲内で自由に設定することができます。
ですから、Balancerの方がUniswapに比べるとよりユーザーの利用自由度が高い設計になっていることがわかります。 この自由度がどう勝敗を分けるか?でいうと、僕は、Uniswapの方に、ある程度、制約を設けた方がスケールするという考えです。
なぜなら、自由度をあげた分、ユーザーが自分で考えて取り組む内容が増え、その結果、複雑な仕組みと不満を感じるユーザーが離脱してしまうリスクがあるからです。ユーザーが扱える機能を限定することは実は、プロダクトをよりシンプルにするため、それだけスケールしやすいプロダクトになるということです。
以上の理解を踏まえた上で、Balancerが、中央集権型取引所を完全に凌駕する上で、重要となる課題についてまとめておきました。こちらのご覧ください。
まずは、スケーラビリティとトランザクションコストですね。 これが課題に上がる原因は、現状のBalancerは、イーサリウムの上で動いており、イーサリウムで発行されているトークンのみ(NFT含む)が、売買対象になっているからです。
イーサリウム2.0に移行が完了すれば、マイニングアルゴリズムが、PoWからPoSになるため、トランザクションコストも下がり、1秒間あたりの処理可能件数も現在の15件から、3千件から5千件ぐらいまでは上がると見ており、かつ、1件あたりの処理コストも、ビットコインと同じPoW時代に比べて、かなり下がると見ています。
次に、クロスチェーンの取引ですね。アトミックスワップと呼ぶこともあります。 僕が一番気にしているのは、NFT市場です。間違いなくNFTは、ブロックチェーンゲーム市場から立ち上がると見ています。現時点で、ゲームNFTに強いのはイーサリウムです。圧倒的にNo.1です。
しかし、先にのべた特にトランザクションコストがPoWである限り高騰化は避けられないので、大型の仮想通貨なら1回あたりの取引額もそれなりの規模が期待できるので、高いガス代でもユーザーは妥協してくれる可能性もありますが、一つのトークンあたりの売買高が小さくなること必須のNFTの売買では、このガス代ではユーザーから毛嫌いされるリスクがあります。
そうなってくると、新興のゲームNFTに特化したFlowなどの新型BaaSが、その市場の隙間を埋めてくる可能性が高いと見ています。NFTは、物凄い規模の潜在市場がある可能性が大きいからです。
これが現実化、クロスチェーンのトークン売買するテクノロジー開発が間違いなく重要になってくると見ています。
Balancerは自社技術でやり切ることができれば、更なる大きな成長が待っています。 そして、最後が、先ほど話をしたインパーマネントロスです。僕は、Yearn.Financeなどのアグリゲーション・サービスを提供するプレイヤーが埋めてくると予測しています。 ただし、上のリスクが解消される見込みが立たないと、Balancer含めたDEXが、巨大な成長トレンドに乗ることはないと見ています。なぜか?
こちらを見てください。
よく話をするキャズム理論です。 ユーザーが5つのカテゴリに分類されており、イノベーターから新技術の利用が開始し、最後、最も保守的なレイトマスに使われるようになって、プロダクトとしての商品ライフサイクルが終わりを迎えます。 重要なのはこのキャズムを超えるための条件で、Balancerにとっては、先ほどのトランザクションコストやインパーマネントロスの問題が解消されない限り、アーリーマジョリティに利用され始めることはないと見ています。
チーム分析
次にチーム分析です。
共同創業者でCEOのFernandoは、ブラジルの大学でエンジニアリングの学士を取り、EnergyMateというオーガニックのエネルギードリンクのメーカーを立ち上げた経験のある連続起業家です。
そして、彼以外に現時点で、数名のソフトウェアエンジニアがフルタイムでいます。 DAO開発に最適な小さいチームをキープできており、この点は素晴らしいです。
チームの実行力の分析
次に、このチームの実行力の評価ですね。 中央集権取引所とDEXの売買高を比較したものです。
Balancerは、中堅取引所の一つGeminiと大体同じ規模の売買高を持っています。2018年に開始したプロジェクトという点を踏まえるとまずまずの実行力です。
トークンエコノミー分析
次に、トークンエコノミーです。 DEXは、こちらですね。
DEXの仕組みは、どちらからというとB2Bモデルなのですが、最終的には、ユーザーが、売買してくれないと流動性は上がりませんから、その点で、リーワード経済からネットワーク効果まで幅広く対応していく必要があるレイヤーです。
最重要のネットワーク効果について、BALのパターンをまとめました。
まず、最重要なことは、流動性プールを大きくするほど、Balancerのネットワーク効果は強化されます。
まず、仮想通貨の投資家でイールド・ファーミングや流動性マイニングに興味の投資家が、保通している仮想通貨をBalancerにロックアップしていきます。 彼らが参加するモティベーションは、トレーディングフィーのリベニューシェアですね。
こうして、Balancerで登録されているトークンの量と種類が豊富になっていき、顧客体験が改善されていきます。 しかし、インセンティブを生み出す元になる売買高、つまり、トランザクション量が増えなければなりませんが、実は、Balancerの価格決定メカニズムは、中央集権型取引所の価格決定とは、確実に価格差を生み出すので、これが、アービトラージの絶好の機会になります。
これを狙ったトレーダー達が、Balancerで活発に活動することで、トランザクション量が成長するため、流動性供給者達は、豊富な収益機会を得ることができ、これが、また、新たな流動性供給者を市場に引きつけることなります。
この二つの成長スパイラルでグロースしていくのが、現状のBalancerです。いずれ、DEXのトランザクション量が中央集権取引所を超えるようになると、中央集権取引所とのアービトラージ機会に依存しない成長モデルが必要になってくるでしょう。
最後にガバナンスです。
Balancerは、Uniswapに比べると少し精緻なレベルで劣りますが、着実にDAO開発は進んでおり、今後も期待しています。
ハイプサイクル分析
最後に、ハイプサイクル分析ですね。
いつものガードナーのブロックチェーン産業のハイプサイクルの最新マップをベースに話をします。
DEXのプロジェクトは、ブロックチェーンを利用したAHC(Automated Clearing House)Paymentが該当します。ACHは、分散型の銀行間送金ネットワークで、DEXもこれをブロックチェーンを利用することで、送り手と受け手の間でよりセキュアで高速な送金を実現しようとしていることと本質的には同じです。目的が送金ではなく、投資の売買であるということですね。なので、まだ黎明期の段階です。
また、DEXはプラットフォーム型のプロジェクトですから、当然、DAOが中長期で重要になってきます。Balancerは、Uniswapには劣るものの対応も進んでいるので、大きくは心配していないです。
投資に関する最終的な総合評価
そして、最終的な総合評価は以下の通りです。
まず、DEXはこの業界にとって非常に重要なカテゴリの一つになり、ペインポイントの内容もクリアになっているので、5.0です。
そして、プロダクトは、やはり、プロダクトにユーザーの自由度を与えすぎると逆にスケールするブレークになるため、Uniswapとの比較をその点から評価して、3.5にしました。
チームも、小さいチームをキープしていながらも、プロダクトのあーテクチャ思想などが、競合のUniswapに比べると魅力落ちするので、3.5にしました。
チームの実行力は、立ち上げから二年でGeminiの売買規模まで他到達していますが、同時期に立ち上がったUniswapよりは劣るため、4.0にしました。
トークンエコノミー は、DEXとしてのネットワーク効果の設計もできており、BALガバナンストークンを利用したDAOのポテンシャルも高いです。唯一残されている中央集権取引所の売買高を超えた後の成長モデルをどう作り上げるか?の課題を踏まえて、4.5としました。
最後にハイプサイクルは、先ほど指摘した中長期の課題を踏まえつつ、DEXとDAOの両者の面で、きちんと成果を上げる可能性があるので、4.5としました。
合計点は25.0です。僕の最低の投資基準は25.0以上なので、投資推薦できる銘柄です。
以上、みなさんの参考になれば幸いです。
注記:最終的な投資判断は自己責任です。