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JR東日本がようやく「キャッシュレス化」に対して動き出してきたようですね。

簡易版Suicaがキャッシュレス戦争を制する?覇権うかがうJR東の深謀

「深謀」という言葉を使っているこの記者は、ほとんど決済市場のことを理解していないように思います。

Suicaに使われているNFCの技術は3タイプある

まず、Suicaに使われているNFCという技術は、その他の電子マネーやApplePayなどにも使われている半径10cm内で比較的小さいサイズのデータをやりとりする近距離の無線技術です。世界でも標準化が進められている技術なのですが、大きく3つのタイプがあります。それぞれ名前がついていて、TypeA、TypeB、そして、TypeFです。このAとBはほぼ近いスペックで、こちらは欧米の企業が中心になって標準化が進められている一方、TypeFは特徴的で、このFというのは、Sonyが開発したNFC技術のFelicaから取ってつけられた名前です。そして、Fだけ抜群に高性能です。AやBですと、ユーザーがNFCチップが内臓されたカードを読み取り端末にかざしてから3秒以内に読み取るのは不可能なのですが、Fはそれに耐えられる仕様になっています。更に、TypeFの方が電波もA/Bに比べてより強いので、読み取りエラーが起きにくいのですね。ですから、東京の山手線や地下鉄など、通勤・通学ラッシュでものすごい数の人が通り抜けるあのオムロン製の改札機にフィットしているのですね。また、セブンが出しているナナコやイオンが出しているワオンも同じ理由で、TypeFを採用しているのですが、理由は同じです。コンビニは、レジ待ち客を無くす代わりに定価で商品を売ることで、スーパーと差別化していますから、TypeFを採用するわけです。一方、スーパーも、夕方ごろのレジ混雑期の問題を解消するため電子マネーなどの電子決済を使っているわけで、ここもTypeFを導入する動機が明確にあります。

フェリカは日本メーカーの悪い癖の典型例

しかし、キャッシュレス化の主戦場である地方はどうでしょうか?人口密度が下がっているところもたくさんあります。その点は、こちらのブログにもまとめています。

GAFA、トランプ政権、キプロス預金封鎖、日本の地域創生(東京一極集中)は、実は社会文脈的には全て同じ

地方経済をキャッシュレス化していく上では、実はTypeFは完全にスペックオーバーなんですね。僕は、これを「日本メーカーの悪い癖」と呼んでいます。マーケットのニーズをきちんと踏まえず、高品質・高単価の製品ばかり作ってしまう癖です。エンジニアの自己満足にしかならない製品です。この点は、フラッシュメモリーにおける舛岡氏のエピソードでも見て取れることです。

日本は「社畜大国」なのか?フラッシュメモリーの発明者、舛岡富士雄氏の半生から想う

実際によく調べるとわかるのですが、TypeFというのは、コア技術なので、この技術を使った決済システムをレジや決済端末など、必要になる周辺機器にTypeFの仕様に合わせて開発して行くと、ものすごい高コストな決済インフラが出来上がってしまうのです。たとえば、TypeFによるSuica決済を地方のお土産屋さんで導入すると、加盟店手数料が、平均4%を徴収されます。Squareや楽天スマートペイが、3.25%前後でクレジットカード・デビットカード決済を提供している一方で、この高い手数料ですから、Suicaの現在の決済ネットワークで地方市場を開拓するなど完全に非現実的な発想なのです。ですから、東京のような日中人口が3,000万を超える巨大な過密都市がほとんどない海外市場では、TypeFが全く普及していません。その理由は、VISAやMasterなどの世界的に普及している決済システムの利用手数料が年々下降傾向にある中で、TypeFでそのようなトレンドを無視した高コストな決済技術として作られてしまっているからなのですね。完全に、市場の全体像とトレンドを捉えていない技術開発です。

そして、その傾向は、ビジネスにおいても同じです。「木を見て森を見ず」というビジネス作りを日本企業はよくやります。これが、日本市場のガラパゴス化の原因の一つだと考えています。日本の企業の多くは、「東京」におけるビジネスを中心に考えています。「東京」自体が、世界的に見て非常に特殊な市場なのです。政府の機関も、大手企業の本社も、ベンチャーの本社も、そこに投資するVCや銀行も皆東京に集中している。結果的に、皆、日常生活=東京の生活になってしまうため、新しい技術やビジネスに対する発想も東京中心になっていく。その東京で通用するものをビジネスにしようとビジネスデザインをしていたら、いつまでたっても「ど田舎のシリコンバレー」から生まれてくる世界中のどこでも通用するような拡張性の高いビジネスを思いつかない、そして、育てることができないのは当然なわけですね。

廉価版Suicaが東京オリンピックに間に合うことはまずない

ようやく今になって動き出したJR東日本が、TypeA/B型をいつ投入できるか?そして、どれだけサードパーティが使い安いモデルで投入できるか?正直、あまり期待していないです。現状のTypeFのサードパーティ利用もかなり価格も高く仕様も複雑なので、QRコードのように、ベンチャー企業がすぐにアプリを作れるものに全くなっていないです。間違いなく、今進むキャッシュレス化の流れのティッピングポイントになるであろう東京オリンピックに向けて、全てが動いて行っているのですが、JR東日本は完全に周回遅れです。間違いなく間に合いません。

大企業は、頭脳の白痴化を招く

結論として、いつも思うのですが、東芝の不正会計に起きた「組織犯罪」とは別の軸で、大企業に言えることは「組織的白痴化」です。個人個人は、会って仕事をしてみるとそれなりに頭も良いと感じるのですが、組織として下す決断があまりにも愚かな内容になることが多いのですね。今回のJR東日本も、廉価版を出すことを決めるタイミング自体が、恐ろしいほど遅いわけです。このような問題もまた、このブログの趣旨である組織に縛られず「自由に生きていく」ことの意義と深く繋がっていることなのですが、また別の機会に話をしたいと思います。