日本のキャッシュレス化において、なぜQRコード決済の普及が重要か? Vol.1

2025年の大阪万博までに40%のキャッシュレス化を目指すということで、経済産業省の800億円の税金投資に始まり、LINEPayとPayPayによる100億円単位のプロモーション合戦、メルカリの売り上げ代金を利用したメルペイの参入など、最近、「過剰競争気味ではないか?」という記事がでることもある、日本のキャッシュレス化市場ですが、僕は「今の日本のキャッシュレス化を進めるには、過剰競争ぐらいがちょうど良い」と考えています。その理由をお話します。

キャッシュレス化の主戦場は、東京ではなく地方

まず、理解していただきたいのは、その主戦場は、「地方」経済であるということです。ここは、みなさんの感覚的な理解で十分なのですが、東京や大阪など、日本の主要都市で生活したり、出張や旅行で訪れた際に、立ち寄った飲食店やお土産屋さんなどで「すみません、うちは現金しか受付けていないんです」ということを言われた方はまずいないと思います。日本の主要都市は、もうすでに十分キャッシュレス化が進んでいるんです。進んでいないのは、地方なのです。

僕の海外の友人で、日本の地方の温泉宿に泊まって、現地の日本の食器などをちょこちょこ買うのが好きな人からよく愚痴で言われるのが、「温泉宿以外のお店でカード決済できないから、地元の工芸品屋さんで気に入ったものがいつも買えない」と不満を言われます。外国の方で日本に旅行にくる人は、大半、現金はほとんど持ってきておらず、全てカード決済を希望するからですね。現金は為替手数料も高いですし、必ず、余ってしまうし、小銭は超不便です。カード決済はこれらの問題を全て解決してくれているからですね。では、その地元の工芸品屋さんに「なぜ、カード決済を導入しないのですか?」と聞くと、だいたい帰ってくる答えは決まって2つです。

  • 加盟店手数料が高い
  • 売り上げ代金の振込サイクルが長い

「加盟店手数料」というのは、VISAやMaster、JCB、もしくはAMEXなど、各カード会社のブランド別に、それらのブランドのカード決済をOKしている店舗さんが、カード会社に支払う手数料のことです。そして、もう1つの売上代金の振込サイクルとは、カード決済された代金が、加盟店の銀行口座に振り込まれるまでのサイクルです。そして、日本は、この2つが、アメリカや中国に比べて、導入店舗側にとっての条件がとても悪いのですね。


例えば、日本に、店舗向けの決済サービスで参入してきているSquareを例にとると、Squareの本社のあるアメリカでの加盟店手数料はVISAやMasterで、1.9%程度です。一方、日本では、同じVISAとMasterは、3.25%します。この1.3%以上の差を生み出している背景はどこにあるのか? そして、振込サイクルも、アメリカでは、翌営業日振込は当たり前で、1%を追加で支払えば、即時振込なども提供されている一方、日本の場合はどうか? 例えば、Squareを例にとると


という具合なのですね。つまり、これは、Squareの日本法人が法人口座を持っている、みずほ銀行と三井住友銀行だけ「翌営業日振込が可能」というのが裏のロジックです。それ以外の金融機関は、週1回のサイクルでしか売上が入ってきません。これでは飲食店など仕入れが多い業者にとっては辛い話です。Squareが外資だから、なんかSquareだけこのような条件を強制されているのではないか?と考える人向けに、楽天スマートペイの場合はどうか?というと、

そう、楽天スマートペイの場合も似たようなもので、楽天銀行に口座を持っていない加盟店は、自動振込どころか、入金依頼が必要で、しかも、振込手数料も加盟店負担になっている始末。なぜ、なのでしょうか?

日本の加盟店手数料が、アメリカや中国に比べて高いわけ

それは、日本の決済システムの構造に問題があるのですね。日米比較でその構造について図にしました。

まず、アメリカの方からみて見ましょう。カード決済の場合、支払う個人も、商品やサービスを提供する法人も、銀行口座を持っていますから、最終的にはその銀行口座間で決済が行われます。この銀行間の送金を見ているシステムが、FedWireやCHIPSと呼ばれるシステムで、FedWireは、連邦準備銀行というアメリカ政府系の銀行が管理し、CHIPSは、民間銀行が共同で運営しているシステムです。それぞれ強みが異なるので、各銀行は用途に応じて使い分けています。その下にくるのが、カードブランドであるVISAやMaster、AMEXなどが提供しているブランドシステムと呼ばれるもので、これが、カード決済を可能にしているシステムです。大きくカード発行体のシステムであるイシュアシステムと、加盟店側を管理しているアクワイアラ・システムに分類されます。前者は、カードを持つのは個人ですから、消費者を管理しているシステムといっても良いです。ちなみに、中国の決済システム、Union Payはアメリカの決済システムを参考にしながら作られているので、構造は似ており、かつ、VISAやMasterのエンジニアを雇って作ったので更に色々と改善されているようです。

一方、日本の方はどうかというと、ほとんどアメリカに近いですが、1つだけ大きく異なるのが、CAFISというNTTデータが提供している決済システムが間に入っているのですね。実はこれが厄介なのです。まず、CAFISは、%では課金しません。1回の決済で13円と固定手数料を取ります。ですから、高額単位の決済であれば、大した金額ではありませんが、コンビニや小売店でちょっと買い物をしたりなどの少額決済には辛いですね。キャッシュレス化の目的は、この少額決済を全て電子化することです。つまり、日本の決済インフラが高い理由の1つは、このシステムの多重構造が原因にあります。

そして、これは歴史的な経緯もあります。まず、アメリカのVISAなどは、元々バンク・オブ・アメリカの事業部として立ち上がった背景もあり、銀行がイシュアシステムを自ら作るというケースが大半です。一方、日本の場合は、銀行でイシュア・システムを持っているところは、ほとんどありません。全てNTTデータのCAFISに頼っているのですね。そして、更に日本の銀行の人たちは、VISAやMasterの営業には乗らなかったので、彼らは、小売業者にカードビジネスを持ちかけました。例えば、日本のカード会社最大手の1社であるクレディ・セゾンは、西武百貨店系のカード会社ですね。小売業者がVISAやMasterのカード事業を開始したことで、クレジットカード決済が日本でも普及しはじめ、これはやばいと言って、銀行が連合を組んでJCBを作ったのですが、後の祭りで、CAFISを利用しないとサービス提供できないようなシステムになってしまいました。まあ、未来を見抜いて投資してCAFISを作ったNTTデータは、優秀とも言えるのですが、今はこれが日本の決済の足かせになってしまっているという悲しい現実があります。

また、実は、これが、海外で若者が当たり前に使っているデビットカードが、日本で普及しない原因の1つです。要するに、銀行側が自分たちのシステムを直接VISAやMasterのシステムに接続していないので、デビットカードのクレジットカードに対抗する強みである「即時口座引き落とし、即時残高チェック可能」が提供できないのですね。2010年ぐらいから、ようやく楽天銀行やスルガ銀行など、ネットユーザー相手にサービス提供する銀行が、VISAなどと直接システムを接続してデビットカードの提供を開始しました。つまり、デビットカードシステムがないと、加盟店に即時売上代金の振込などは提供できないわけですね。実際にやろうと思ったら、Squareや楽天は、イシュア側から入金されるまでの間は、銀行からお金を借りながら、加盟店に売上の支払いをしないといけなくなるので、彼らもそこまでリスクは取らないですよね。

そして、もう1つ、日本の決済インフラのコストをあげている原因があります。それが、それらのシステム開発と運用が、基本、「受託開発産業」によって支えられていることです。大手は、NTTデータ、富士通、NEC、伊藤忠テクノロジーソリューションズ、新日鉄ソリューションズなどです。雇用者100万市場と言われているのですが、アメリカの金融機関は、基本、自らエンジニアを雇って大半内製化で、一部、IBMなどからITコンサルティング支援を受けるというアウトソース手法によるシステム開発・運用モデルですが、日本の金融機関は、ほとんど開発業者に、開発するのも運用するのも「丸投げ」なんですね。すると、当然、中間マージンが発生しますから、システムの開発コストも運用コストも割高になってしまうため、最終的なツケを加盟店が、割高な加盟店手数料として負担するという構造になってしまっているわけです。

今日はここまでにして、次回、VOL.2では、この話を踏まえて、なぜ、QRコード決済の普及が地方創生にとってのカギなのか?という点について話をしたいと思います。

日本のキャッシュレス化において、なぜQRコード決済の普及が重要か? Vol.2

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