日本のキャッシュレス化において、なぜQRコード決済の普及が重要か? Vol.2

前回につづいてのお話です。

地方創生のカギとなるQRコード決済

Vol.1で日本の決済インフラが、アメリカに比べて圧倒的に高く、利便性も低いという話をしました。その結果が、加盟店負担が大きいため、日本の地方では、既存のクレジットカードによるキャッシュレス化が長年進んで来なかったわけです。かと言って、日本の決済インフラがすぐにでも作り変えられるわけはありません。CAFISや全銀ネットなどの超大型クラスのシステムは、半ば、国家システムに近いですから、最短でも10年ぐらいのサイクルで改良されていく代物です。しかし、そんなことは待っていられないのが日本の地方創生の現状ですね。どんどん、地方経済から、人口が東京などの都市圏に流れ、地方経済の崩壊が進んでしまっているからです。

この突破口になるのがQRコード決済です。なぜかというと、圧倒的に、加盟店の経済負担を下げることができるからです。特に、負担を下げられるのが、加盟店側の決済端末の導入費用と通信費用ですね。よくこちらの写真のような決算端末をレストランなどで見た方もおられると思います。これが日本で一般的に普及しているカード決済用の加盟店端末です。これ、ハードウェアだけで、10万以上します。そして、僕らが普段使っているモバイルキャリアよりも1つレベルの高い「専用線」という通信回線契約を結ばないと使えないので、月に数万円程度の専用線回線費を加盟店は支払う必要があります。

ところが、これをQRコード決済であれば、全て1台のスマホでできてしまいます。

QRコードの決済方式であれば、加盟店手数料は、1%から1.5%で提供できると言われています。そして、この手数料水準であれば、地方の店舗でも導入が可能なのですね。そして、銀行が発行体となる地域通貨であれば、加盟店と消費者はその発行体である銀行に口座を持てば、このQRコード決済が、デビットカードのようにユーザーが使えるので、翌営業日の即日入金も可能になります。つまり、QRコード決済であれば、日本のキャッシュレス化の最難関である地方のキャッシュレス化を一気に進めることができるわけです。

QRコード決済の普及により、多様なベンチャーが立ち上がる中国

そして、 QRコード決済が普及すると、中国でユーザーがAliPayやWechatPayによるQRコード決済慣れによって、QRコードを使った新しいベンチャー事業がたくさん立ち上がりやすくりなります。僕も実際に経験したのですが、上海でヨガのレッスンを受けるとき、会員でなくても、ワンタイムレッスンをWechatPayの決済ですぐ利用できるだけでなく、そのあと、その購買履歴をベースに、僕に滞在先の上海近辺の興味がありそうな店舗のクーポンがメッセージで送られて来たりします。このクーポン配信システムは、ベンチャー企業でWeChatに買収された企業が提供しているのですね。あとは、商品やお店単位でQRコードがあるので、その場で読み取って、その商品やお店のレビューなどをチェックして、買うか、入店するかなどのサービスも普及しています。つまり、QRコードに慣れてしまっているので、何をQRコードで提供しても、ユーザーは違和感なくすぐに使いこなしてくれるわけです。AliPayとWeChatPayが長年の努力で作り上げた文化が、素晴らしいエコシステムとして機能し始めているわけですね。

そう、QRコード決済は、新しいエコシステムを決済インフラに提供します。最大の特徴は、先の購買履歴に基づくクーポン配信システムのように「ビックデータ活用」です。VISAやMaster、JCBの決済システムも、NTTデータのCAFISのユーザーの購買履歴データは全く保持していません。ですから、既存の決済インフラに依存していては、このような新しいサービスを生み出すことすら不可能なのですね。一方、QRコード決済であれば、このような可能性が無限にひらけてきます。

1つ別の例をお話しましょう。前に、リクルートのエリクラやポケットマルシェを例に、地方でシャッター商店街が生まれる理由の1つが、「物流」にあるという話をしました。

エリクラとポケットマルシェから考える地方創生に必須の「物流革命」

地元の商店街がイオンに勝てないもう1つの理由は、「データ活用」にあります。イオンは、ユーザーの購買データ(通称、POSと呼ぶ)をベースに、仕入れ商品を考えています。一方、地元の八百屋さんはと言えば、そんな高度な分析をやるツールを持っていないわけですね。ここにQRコード決済を導入し、かつ、Squareなどが提供しているようなiPadアプリによるPOSレジを導入すれば、ユーザーの購買履歴が辿れるので改善施策をうつことができますし、LINE PayやPayPayを通じて、クーポンを発行することもできるわけです。これでイオンと互角に戦えるわけですね。さらに、地域通貨の文脈で言えば、地元ユーザーの行動を加盟店と金融機関が分析可能になるため、商店街のどこの加盟店に融資すれば、来店者が増え、その恩恵を周辺の店舗が受けられるなど、様々なデータに基づく効果的な地方創生活性化の施策を展開し、効果検証も行って行くことができるわけです。ここにAIを使った最適化モデルを導入していけば、地元の小売店やレストランなどが、都心部から参入してくるチェーン店舗に負けない経営ができるようになることがイメージできると思います。

実は、加盟店への新たな融資モデルというのは、オンラインでは成功例があり、それがAliPayが運用して、高い効果があげている「トランザクション・レンディング」です。

トランザクション・レンディングがもたらす精度の高い低金利融資

トランザクション・レンディングというのは、もともとは中国最大のEC企業であるアリババが、自分たちの加盟店に提供を始めた融資ビジネスです。ECを運営しているが故に、アリババは、各加盟店別、更には商品別の売り上げ動向を全て把握することができます。アリババ自体が、1つの巨大なPOSなんですね。なので、特定の時期に、特定の商品需要が高いにも関わらず、売り上げが伸びていない会社がある場合、その原因は、更に売り上げを伸ばすための資金が不足していることであることが多いため、資金を提供してあげれば、売り上げを伸ばすことができるわけです。すると、アリババ自体の加盟店からの手数料収入も伸びるため、お互いにメリットがあるわけですね。Alibabaは、この融資の原資をAliPayを使ってユーザーから集めています。AliPayにお金を入れておくと金利がつくのですよ。その金利は、この加盟店へのトランザクション・レンディングから得た収益です。

このモデルは、楽天も参考にしています。しかし、いかんせん難しいのはオフライン向けなのですね。なぜかというと、決済とPOSシステムが連動していないと、トランザクションレンディングのアルゴリズムを開発するのに必要な購買データが得られないからです。E-コマースでは、この決済とPOSを結びつけるのが容易なのですが、オフラインは、POSと決済のシステムがバラバラな技術で発展してきているので、統一的なソリューションがないのです。ですから、日本では、FreeeやMoneyForwardが会計データを元に地元金融機関と組んで、「トランザクション・レンディングをやろう!」と動いていますが、全く効果は出ないと思います。なぜなら、必要なのは、会計データではなく、決済とPOSデータだからです。

アメリカでは、Squareに、この事業機会に既に気づいて、5年ぐらい前からオフライン加盟店向けのトランザクション・レンディング事業を軌道に乗せています。Squareは、元はオフライン加盟店向けのスマホを使った決済サービスからスタートしたベンチャーですが、今やPOS端末も提供し、E-CommerceサービスによるO2Oモデルも提供している会社です。Squareはアメリカでは銀行免許を取得しているぐらいなので、トランザクション・レンディングの事業が如何に彼らにとって重要かわかると思います。

そして、QRコード決済をユーザーが使ってくれれば、実は、このトランザクション・レンディングに必要な購買データがとても簡単に手に入ります。ただ、それはあくまで、日本の既存の決済インフラの上にQRコードを載せるのではなく、最近普及してきているPOSアプリなどと連携させる形のQRコード決済の仕組みである必要があります。地方経済が、 QRコード決済型の電子型地域通貨によって、低コストな決済ネットワークで加盟店網を広げ、そこにトランザクションレンディングを乗せて行けば、間違いなく、地方経済の活性化に貢献すると見ています。

僕は、ここは、日本の地方創生にとって、恐ろしいほど重要であると考えています。なぜなら、地方の経済システムがどんどん衰退・破綻していっている背景は、地銀をはじめとする地域金融機関が、テクノロジーを活用して、このように先進的な対策を全く打とうとしないからです。

実は、苦境が続く日本の音楽業界についても、原因は、この地方創生の場合と、本質的に同じだと思います。テクノロジーを上手に活用できないとますます苦しくなるのが現代です。詳しくはこちらをご覧ください。

日本の音楽業界のIT化の遅れは間違いなくアーティストを食えなくする

最後にもう1つ

さて、ここまでの話を踏まえて、QRコード決済が、いかに、日本のキャッシュレス化、そして、その先にある地方創生にとって重要かが理解を深めていただけたと思います。最後にもう1点。Vol.1でご紹介した日米の決済システムの図を振り返って見ましょう。

基本的に、どこの国もこの決済システム構造はだいたい近く、日本からドルなどに送金する際には、SWIFTと呼ばれる国際送金システムを使っています。ここに、ブロックチェーンによって新たに構築されて行くトークンエコノミーがどうこのシステムを再発明して行くか? つまり、上の図にあるFedwireや全銀ネットのレイヤーから、消費者や加盟店のレイヤーに至るまで、全てを根本的に、この金融インフラを作り変えることができる唯一のテクノロジーが「ブロックチェーン」なのです。それは、かつてインターネットが、既存のTVや新聞などのオールドメディアには全く依存せず、新しいメディアを作って行った歴史と同じ歴史をたどることになるでしょう。

トークンエコノミーが、ブロックチェーン産業の発展にとっていかに重要であるかは、こちらにまとめていますので、まだ読んでない方は、ぜひ読んでみてください。

トークンエコノミーはリワード経済と株式経済をP2Pモデルで融合させたネットワーク効果の1つのモデル

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