楽天のLyftへの投資実績は、投資家としてはまずまず、事業投資としては「先見の明」あり

ライドシェアリングの市場で、世界二強のUberとLyftのIPOが決まり、楽天が、公開後のLyftの最大株主(約13%)になるということで、楽天の株価上昇も含めて話題になっていますね。メディアでは、「楽天の素晴らしい先見の明」という評価なのですが、シリコンバレーの市場をよく理解するものからすると、実は「まずまず」という評価が適切です。よい機会なので、Lyft 資金調達の履歴を例にとって、シリコンバレーの出資競争がどのように展開しているのかについて、経験談も踏まえて、お話したいと思います。

ベンチャーの基本の調達ラウンドの定義とExitルール

まず、下記が株式で資金調達していくベンチャーラウンドの基本的なモデルです。縦軸が企業価値で、横軸が時間の流れですね。はじめに各ラウンドの基本的な定義についてお話します。

Seed

その名の通り、「種まき」ラウンドです。起業家の仮説に基づき、まだ生まれてもない未知の市場に対して製品を開発し、初期の実績を取りにいきます。B2CとB2Bで求められるトラクションの内容は当然、違います。B2Bでは、Go to market starategy(=市場参入戦略)に基づく初期の顧客対象が、SMB(個人事業主から中小企業)、Mid-large(中規模)、Large(大企業)で異なります。

Series A

Seedで獲得した初期の製品の売り上げ実績をベースに、市場分析をかけ、より明確に定義されたGo to market strategyに基づいて、市場開拓を行うラウンドです。日米の比較で言うと、Seedラウンド時点の出資条件は、Corvertible BondやConvertible Equityといった優先株への転換権付き社債or株式で調達するのですが、この時点の条件は、そんなに日米で差はないのですね。しかし、SeriesAで一気に差ができます。日本のSeriesAラウンド時のSeriesA完了前の時価総額は、10億から15億程度ですが、シリコンバレーは50億から100億です。そして、シリコンバレーでは、このSeriesAが起業家にとっても投資家側にとっても最重要のラウンドと考えられています。まず、投資家側の目線でいうと、「ターゲット市場のポテンシャル(=Next big thing or not)」と「勝ち馬の見極め」を求められるラウンドです。Next big thing or notとは、シリコンバレーは、僕の言い方からすると「ゴールドラッシュ文化」の世界なので、「これこそがNext big thingだ!」と言うので色々な投資テーマでSeed roundが走るのですが、SeriesAのroundで実際にそれがほぼ見極めが終わるのですね。ですから、どこが勝ち残るかも、SeriesAで投資家側は見極めます。これ以降は、生き残った少数の勝ち馬同士のNo.1を決める戦いに以降します。

SeriesB

赤字を垂れ流して、ネットワーク効果を最大化し、競合を駆逐し、市場シェアを抑えにいくラウンドです。ここで、起業家側の経営力が問われるのが一般的です。Series Bよりは、一般的に「Growth Stage」と呼ばれ、どれだけ短期間に急成長を遂げられるかが勝負ポイントになります。つまるところ、組織の拡大スピードが全てを握ると言っても過言ではないです。ですから、Growth Painという言い方もするのですが、急激に組織を大きくすると、色々な「痛み」が組織に出るのですね。その痛みを吸収しながら成長スピードを加速できるか?が問われます。

SeriesC or Exit(M&A or IPO)

Series C以降は、基本的にGrowth Stageの継続です。メルカリの場合は、SeriesDまで未上場で耐えて、その後、IPOでしたね。5年前の日本であれば、Series B=IPOと言う感じでしたが、徐々に日本のベンチャー業界にも資本蓄積が起きているため、SeriesDぐらいまでは未上場で耐えらえるようになってきたと言うことです。

 

VC側の投資テーマに上がってから2年で勝負決まる

この基本のラウンド定義を踏まえた上で、僕のシリコンバレーでの起業経験を踏まえると、SeedからSeriesAの間は、約2年で勝負が決まります。例えば、僕は2009年ごろから、以前こちらのブログでも触れた「検索エンジンとソーシャルメディアの間にはメディアギャップがあると言う仮説」をたて、2010年にシリコンバレーでMusavyという今のNewsPicksとほぼ同じプロダクトで勝負を仕掛けました。2010年の後半には、Curation is a next big thingと、シリコンバレーのインナーサークルの人たちが言い始め、Flipboardが10億円を老舗VCのKPCBから調達し話題を集めました。その後に、瞬く間に50社近くは競合が立ち上がったことを記憶しています。感覚的には、日本の約10倍ですね。しかし、2011年の後半ごろには、「キュレーションの市場はそんなにデカくならないね」、と言う判断をインナーサークルが下したので、2012年初旬には、投資家は引きはじめていました。この間、たったの2年です。一方、日本は、キュレーションメディアで最もメジャーなSmart Newsが創業したのが2012年6月でちょうど僕がシリコンバレーでMusavyを閉じる決意をした時でした。笑 この2年は、ほんとあっという間だった感覚です。

要するに、日本とシリコンバレーの間は2年ぐらいの時間差があるのですよ。この時間差が生まれる原因は、日本のVCです。シリコンバレーの動きを見てからでないと日本の大半のVCは動かないので、起業家も動くだけエネルギーの無駄になります。なので、Orbの時は、日本で開始しましたから、2013年にCoinbaseやRippleなど、シリコンバレーの主な仮想通貨ベンチャーがSeriesAを完了するのを待ってから動き出しました。こういうタイミングを測る能力も起業家にとっては重要ですね。ただ、実は、この時間差も、日本でイノベーションを起こしズラくしている最大の背景の1つでもあります。このあたり、なんとかせにゃならんのですね。

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楽天はまずまず、TwitterにSeriesAとBの間に入れたDGの方がVCの実績としては上

ですから、その点を踏まえて、楽天がLyftに入れたタイミングを見ると、既に350億円ほど調達した後の550億円のSeries Eラウンドで、リードインベスターとして始めて投資しているわけです。その後、フォローアップの投資で、630億円のSeries Gラウンドもリードインベスターとして、520億円のSeries Hラウンドで追加のフォロー投資です。LyftはIPO前に合計で、約5,000億円強を調達しています。僕のヨミでは、この感じの出資であれば、楽天のリターンは、最低5倍から最大8倍ぐらいでしょう。

では、誰がSeriesAで入れているかと言えば、やはり、インナーサークルのマーク・アンドリーセン率いるAndreessen Horowitzやピーター・ティール率いるFounders Fundなのですね。彼らは、Series G以降のラウンドで、150億円分の株式を新規の投資家に売却していますが、SeriesAで入れている金額は、恐らく2億から多くて5億程度なので、既に何十倍と言うリターンを得ています。2017年の仮想通貨投資のリターンと同規模レベルですね。これが、僕が、「トークンエコノミーがキャピタルゲインが得られるアフィリエイト」であると言っている話にもつながっています。

ですから、楽天は「まずまず」なのですよ。僕がシリコンバレーでやっていた2012年ごろには、AirbnbやUberは既にSeriesAを終えて「シェアリング・エコノミーはNext Big Thingだ」というのが明示的に言われていました。ですから、楽天は、勝ち馬の1社になっていたLyftに乗ったと言うことです。これはウルトラ難易度の高いことではないです。それよりは、UberもLyftも早くもトークンエコノミーの概念を今回のIPOに取り入れている点の方が「先見の明」があると言えますね。彼らはシェアリングエコノミーのプレイヤーですからね。この辺りの適応力の早さがスゴイわけです。口先で盛り上がるだけでなくて、しっかりと可能な最大限の範囲で実行にうつしてくる。

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また、シリコンバレーで、同じカテゴリのベンチャーが2社残るというのは珍しくて、大半、どちらかが途中で負けます。UberとLyftの競争であれば、僕は市場を先行していたUberの方がずっと優勢とみていましたし、事業規模も常にUberがLyftの上をいっていましたが、Uberの共同創業者でCEOでシリアルアントレプレナーのカルカニス氏が、2017年にスキャンダルを起こしCEOを退任するなどの騒動にまで至ったため、経営が失速している間に、Lyftが売り上げを3倍にして、完全にIPOで生き残れる道筋をつけたというのがあります。

Uberがスキャンダルで低迷、ライバルのLyftは売上が三倍増:Tech Crunch Japan

その点と比べると、直近の日本VCとしてのシリコンバレーにおける最大のトラクションで言えば、TwitterにSeriesAとSeriesBの間ぐらいで数十億投資したデジタルガレージの方が実績的には上になります。Twitterの案件をDGに引っ張ってきたのはJOIさんで、Twitterには、Biz StoneとEvan Williamsと言う優れたシリアルアントレプレナーがいたわけですが、この時点のJack Dorseyの起業家としてのポテンシャルを見抜いたJOIさんとDGのチームは、十分「先見の明」に値すると思います。Jack Dorseyは、シリコンバレーでは、イーロン・ムスクと並んで、Next Jobsの評価を得ている起業家ですからね。僕がConsensusのイベントなどで仮想通貨業界の人々と話していると、仮想通貨でB2Cのキラーアプリに対するアメリカの業界関係者の彼に対する期待はとても高いと実感しています。彼が率いるSquareは、Walletアプリで既にビットコインの購入を可能にしているからであり、Ligning Networkを開発しているLightning Labsに彼が出資もしているからですね。

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IPOを遅らせるほど勝負は有利になる

ここで関連の話をすると、メルカリの上場前の調達額が120億である一方、Lyftは5,000億以上なわけです。Lyftは、なぜ、IPOをここまで遅らせてきたのか?実は、Lyftに限らず、シリコンバレーは、相対的にIPOを遅らせる傾向にあります。もちろん、過去の巨大なIPOとM&Aによって膨大な資本を蓄積してきたからこそ、これが可能になるのですが、いくつか理由があるうち最重要の1つが「戦略を公開する必要がないから」ですね。Facebookのマーク・ザッカーバーグがこの手法を取り入れて以来、追随する起業家が多いです。競合を完全に駆逐するまでIPOしないと言う発想です。IPOをすると、事業戦略など全て情報公開しなければならなくなるので、競合に自分たちの情報がダダ漏れするわけです。まだ、自分達がまだ完全にNo.1になっていないのに、そのようなことをすると市場での戦いが不利になる。だから、未公開の状態をギリギリまでキープしようとします。もう1つは、IRコストです。以前、トークン・エコノミーの話をした際のAirbnbのCEOが上場タイミングを引き延ばしている理由で伝えましたが、投資リターンしか考えていない不特定多数の投資家を相手に経営するのは、かなり負担なのです。

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ただ、ICOは、このモデルの逆ですね。スタートからホワイトペーパーにかなりの情報を載せますし、不特定多数の投資家を相手にすることになります。だからこそ、トークンホルダー=ユーザーというトークン・エコノミー作りがかなり重要になると見ています。今のような投機家だらけの仮想通貨市場では、トークンエコノミーを使ったベンチャーは全然育たないですね。その点は、ここにもまとめています。

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Softbankの10兆円ファンドの戦略をシリコンバレーの起業家側は大歓迎

実は、孫さんが仕掛けた「10兆円ファンド」の狙いは、この起業家側の「IPOを遅らせたい」というニーズに答えるためのものなのですね。10兆円のファンドを作ること自体がかなり難易度の高いことですから、やりきること自体が本当すごいのですが、優れた戦略を立てている点も素晴らしいと思います。孫さんの事業戦略は、かつてのYahoo!を当てた時から基本変わらず、インターネットのインフラを世界最安水準で提供しながら、ベンチャー投資で莫大なリターンを稼ぐ。これが回り続ける限りは、ソフトバンクは、通信会社としては、世界で最も安いコスト構造を持てる可能性をひたすら追求できるため、競合と圧倒的な差別化ができるわけです。しかも、恐らく、孫さんは、北米のアーリーステージのベンチャーへの出資は、大半、インナーサークルが取るをわかっており、昔Yahoo!を取りにいったように自らが常に動いて案件開拓をし続けるのは限界もありますから、ここに入り込むのはかなり難易度が高いことを見越して、レイターステージで、彼らアーリーステージの投資家の株も買い取ることなどを視野に入れての10兆円ファンドと見ています。この点でも、ソフトバンクの方が、投資としては、楽天の一歩上を言っているといえますね。

しかし、楽天がLyftを物流インフラと見ているのであれば話は別

しかし楽天が、Lyftのリソースを使って、楽天の物流システムを変えていこうとしているのであれば、これは「先見の明」ありです。なぜなら、Amazonと競っている楽天にとって、常に先を越されているのは物流だからです。Uberも最終的にはそこを狙っていますからね。Uber Eatsは正にそのための布石です。楽天デリバリーも同じです。ただ、Lyftとそこまで深い関係性を構築できるかが今後のキーになると見ています。

僕の今回のLyft IPOに見る楽天の投資家としての評価はこのような具合です。みなさんの参考になれば幸いです。

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