TRONのBitTorrent買収にみるBaaS競争の行方No.2-BTTトークンエコノミー分析

さて、前回のNo.1では、Ethereum、EOS、TRON、Stellar、そして、NEO、NEMなど、非中央集権型クラウドPaaSのレイヤーで競っている彼らの市場が今後のどのような形で、プレイヤーの淘汰と集約が起きていくかについてお話しました。その中で、いくつかのプレイヤーは、有効な施策をうってきており、BitTorrentを買収したTRONの動きは、素晴らしいと思います。ネクストステップとして、今度は、そのBitTorrentがTRONと共同開発を進めているBitTorrent Speed、そしてそこに活用されるトークンであるBTTのトークンエコノミーについて詳しく分析していきたいと思います。

BitTorrentの現時点でのペインポイントを知る

BitTorrent Speedは、BitTorrentの現状の課題解決をするためのプロダクトでもあるため、まずはBitTorrentがどのような仕組みで動いているのかについて理解するのがよいと思います。BitTorrentは、P2Pのファイル共有ソフトですから、BitTorrentのネットワークに参加する人は、自分がファイルをアップロードする目的で使うこともあれば、ダウンロードする目的で使うこともあるという平等な仕組みで運用されていることを想像している人も多いと思いますが実際には違います。BiTorrentのネットワークでは下記のような役割分担があります。

    • シード/シーダー (seed/seeder)   –   完全なファイルを提供しているコンピュータのことを指す。オリジナルファイルの提供者の場合にも、その完全ファイルをダウンロードしたものに対してもシーダーと呼ぶ。
    • インデックスサイト (indexing web site)   –   オリジナルファイルをBitTorrentのP2Pネットワーク上にアップすると、オリジナルファイルは細かく分割され、同時にそれぞれの分割されたファイルのダイジェスト情報をもつ「トレントファイル」(.torrentと言う拡張子がつくファイル)というものが作られる。インデックスサイトとは、このトレントファイルのインデックスを保持しており、トレントファイルを検索できるサイトことをいう
    • ピア (peer)    –    BitTorrentのP2Pネットワークに参加しているコンピュータすべてのこと。
    • トラッカー (tracker)    –    新しいBitTorrentのP2Pネットワークに、新規に参加者が現れた場合、そのコンピュータに、現在アクティブな各ピアのIPアドレスを教えるサーバのことを指す。
    • リーチャー (leecher)    –   ファイルをダウンロード中のコンピュータのことを言う。ピアのことでもあるのですが、この名前を開発者のコーエンがつけた背景は、ピアの中で、シーダーのようにファイルを全くアップロードせずにダウンロードばかりしているユーザーに対して使っている。
    • スウォーム (swarm)    –    同じトレントファイルを元に、同じファイルをアップロード/ダウンロード中のコンピュータのグループ全体をいう。ここが、BitTorrent Speedと関わっているポイント。

では、この6つの要素を踏まえた、BitTorrentの基本的な振る舞いが、現状どうなっているか?について図にしました。

BitTorrentの設計上は、シーダー含む各ピアは平等なのですが、実際には、シーダーをハブにして、複数のピアがそこに紐付きスウォームを形成するような状態になっています。そして、トラッカーの役割とインデックスサイトを運営する役割も実質的には、シーダーが担っていることが多いようです。もちろん、各ピアは、自分の参加するスウォームは好きに選べますし、複数に参加することもできます。そして、このスウォームのサイズとアクティブさを決める要因は何か? 答えは、シンプルで、スウォームに流通している「コンテンツの経済的価値」なのですね。

この背景もあり、シーダーが提供しているコンテンツでもっとも多いパターンは「海賊版のアニメコンテンツ」のようです。無料の海賊版アニメコンテンツの検索+ダウンロードサイトをシーダーが提供し、それを使うユーザーが、スウォーム内のピアとして振る舞うことで、高速なファイルダウンロードとアップロードが可能になります。BitTorrentのテクノロジーは、クライアントサーバーモデルの数倍のスピードがでることが証明されているので、とても重宝されるわけです。

しかし、ピアの多くは、本来は、ダウンロードが終わった後も、自分たちの回線をシーダーのファイルアップロードリソースとして提供することが「マナー」なのですが、実際はダウンロードが終わったら、そこでネットワークから外れてしまうユーザーが多いので、図の右上で説明しているよう、1つのスウォーム内の共有比/負担率がなかなか「1」(アップロードするためのコンピュータリソースとダウンロードするためのコンピュータリソースがイコールの状態)にならないのが現実のようです。すると、2つ目の健康度が100%にならないので、3番目の99%病という、上のファイルAのケースでいうと、分割されたファイルをもつ全てのピアが見つからずに、ダウンロードが終わらないと言う状態が起きます。そして、この問題をトークンエコノミーで解決しようというのが、BitTorrent Speedです。

BitTorrent Speedは、BitTorrentのペインポイントを解決できるか?

BitTorrentの参加ユーザー一人一人が、上で紹介したピア共有比/負担率=1という状態を常に心がけていれば(つまり、ここには「奉仕経済のメカニズム」が必要なのですが)、スウォーム内のピアはシーダーも含めて、常に平等で正常に機能するのですが、実際は、みんなダウンロードするばっかりなので、不足するアップロードリソースを補うために、シーダーが、不足している分のコンピューターリソースを自ら補うが多いようです。すると、シーダーは、収益がなければ続けられないので、どうするか?というと、「btjunkie」という海賊版コンテンツのトレントファイルを検索するサイトでは、検索サイト内に広告などを乗せて収益を得ていたようです。

btjunkieのサイト – 参照リンク:https://bit.ly/2Cc8pKN

ですから、参照リンクにも記載されている別の事例で、The Pirate Bayというトレントファイルの検索サイトの場合は、月間7億9千万アクセス(Google Ad Planner調べ)あったようなので、仮に広告表示回数に対するクリック率を約0.2%、1回平均10円程度で試算すると月に1580万円の収益が上がっていたことになります。

確かに、現状のBitTorrentモデルでは、シーダーは、経済価値の高いコンテンツに依存しなければスウォームを維持できないという制約が発生しているので、海賊版コンテンツを提供するシーダーがBitTorrentネットワークの中心的な存在になってしまうのは避けられないように思います。タダで日本の有名マンガが読めるというのは、誰にとっても魅力的だからです。ですから、逆に、経済価値の低いコンテンツを提供しているパターンでは、ピアが集まらず、アクティブなスウォームを維持できないのですね。

BitTorrent Speedはここにトークンエコノミーを持ち込んでいます。ファイルAを欲しい新しいユーザー、または、シーダーが、他のピアにインセンティブとしてトークンを払うことで、「ピア共有比/負担率=1」を維持するというアプローチです。奉仕経済を今の万人に強要しても機能しないので、インセンティブを払うことで機能させる。そして、BitTorrentのネットワークが成長するほど、BTTトークンの価格は上がりますから、一定のネットワーク効果がでるわけです。また、BTTのトークンは供給制限がかかっています。この点も価格上昇にはポジティブに作用するでしょう。ただ、今度は、そのトークンを払う側のコストがかかります。これを今までの海賊版サイトのようなモデルで続けていたのでは、世の中の支持は得られないわけですね。

BitTorrentは海賊版サイトの汚名を腫らすことができるかも課題

先ほどあげたBitTorrentを利用した海賊版サイトでは、2011年2月にManga.jpを運営してた18歳の少年が実際に逮捕されるなどのケースも出ているので、マスアダプションを実現するには、この問題を突破する必要があります。しかし、これはブロックチェーンの技術を取り入れれば解決は可能です。BitTorrentの場合は、全ファイルに独自の「.torrent」の拡張子が紐付いていますから、このファイルを全てブロックチェーン上に、アップロードとダウンロードのトランザクションID別に保存していけば、オリジナルファイルを辿ることができます。仮に、悪意あるユーザーが、このオリジナルをコピーして二次著作物として流通させても、よりブロックの古い方の.torrentファイルに紐づけられたファイルがオリジナルであることを判別できます。また、画像キャプチャなどで流通させた場合は、ディープラーニングのアルゴリズムによる画像判定を使えば特定することも可能です。ただ、オリジナルを初めから、BitTorrentネットワーク状にアップロードしてくれないと、この「真贋判定」は不可能なので、大手出版会社が管理しているアニメなどでは、オリジナル自体をいまだに紙媒体で発行しているため、実現するのは厳しいでしょう。

となると、コミケに流通している同人誌であったり、初めからデジタルファイルでコンテンツを流通させてくれるコンテンツクリエーターをユーザーベースにサービス提供する必要があります。その上で、誰が、ピアに支払うトークンのコストを負担するか?という課題がまだ残っています。理想的なのは、コンテンツクリエーターに、ファイルをアップロードする旅に、インセンティブとしてトークンを一定規模付与し、そのトークンを使いながら、各コンテンツクリエーターが自分たちのスウォームを形成し、維持するというのが考えられますが、いずれトークンを使い切ってしまうでしょう。

ですから、SpotifyやNetflixのように広告やサブスクリプションコマースのモデルを取り入れ、スウォーム内のシーダーとアクティブなピアに収益をトークンで還元していくメカニズムが現実的な着地点のアイデアになってくるわけですね。ですから、それらを実行していくための人材と戦略があるのかどうかが重要になってきます。この辺りはコンテンツビジネスの専門領域ですから当然、iTunesやSpotifyがそうであったように業界出身者を引き抜いて事業を作り上げていく必要があります。幸いTRONは、Top10に入るプラットフォームプレイヤーとして資金力はありますから、あとは実行力次第というところです。

ただ、Youtubeのように、初めは著作権違反のコンテンツなども受け入れつつも、最終的にYoutuberという存在を生み出すことで成功したモデルもありますから、この戦略だけが答えというわけではありません。Youtubeの場合は、Googleという強力な広告インフラを持っているプレイヤー傘下に入ったからこそ、フリーミウムによるYoutuberエコシステムを育てることができたので、TRONがどちらに梶を切るのかも見ものですね。

BitTorrentはまだまだ直感的に扱えるB2Cアプリとは言えない

そのような、人材を雇って行ければ、今の彼らのアプリも随分コンシューマーフレンドリーなものになっていくと思います。今のBitTorrentのデスクトップアプリとかは、正直、プログラマ向けなんですよね。。。クリエーターや一般ユーザー向けではないです。下記は、現在のBitTorrentのデスクトップアプリのUIです。BitTorrenty PlayというiPhone アプリもありますが、UIも相当改良の余地ありです。


そして、BTTの支払いシステムには、オークション制度が導入されています。


オークションは当然やりたがると思いますが、より安くリソースを提供してくれるピアにリクエストが集まりますよね。この辺り、純粋なP2Pネットワークを維持するための努力を今後、どのように展開していくのか注目です。単純にいけば、コスト構造の安いピアにリクエストが多く飛ぶので、覇権構造が生まれてしまいますね。このぐらいのシュミレーション思考は当然できた上で、今後、どのようなチューニングを加えていくのかが課題になります。

BitTorrentが成功すれば、TRONはdAppsプラットフォームになれる

先に伝えたようにBitTorrentのP2Pネットワークは、クライアント・サーバーモデルより高速なコンテンツアップロード/ダウンロードを提供できることは証明済みのテクノロジーですから、コスト構造面もトークンエコノミーを使うことによる差別化も含めて、SpotifyやNetflixに競合できる可能性があるわけです。製品戦略として、SpotifyやNetflixの裏方に回るということも可能ですが、TRON自体が、ChairmanのJustin Sunをはじめアジア系のメンバーによって運営されているので、おそらく、直接競合する戦略を展開してくるとみています。そして、BitTorrentでコンシューマーユーザーベースを構築することができれば、そのユーザーベースを起点に、VCとして他のトークンエコノミーベンチャーに出資+TRONへの誘致を行えば、そのベンチャーは、BitTorrentのユーザーベースからのユーザー流入を成長ドライバーにできますからTRON上のdAppsエコシステムにネットワーク効果を与えて成長させていくことができるわけですね。

以上が、僕のTRON+BitTorrentの現状分析です。実際にBitTorrentも使っているので、これからも継続ウォッチして行こうと思います。

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