シリコンバレーの地価高騰がもたらす起業家にとって辛い「思考のゆとりの喪失」

最近、スタンフォード大学で研究員されていた教授の方と色々と未来についての議論をする機会があり、その中で見えてきたこの話をしようと思います。

シリコンバレーの地価高騰がもたらす「思考のゆとりの喪失」

パーソナルコンピュータを生み出したApple、検索エンジンを生み出したGoogle、そして、トヨタをして時期尚早と言わしめた電気自動車の市場を立ち上げたテスラ・モーターズ。シリコンバレーが、今や世界のイノベーションのハブとなっていることに対して、反論できる余地のないことです。しかし、ここに少しずつその陰りが見えてきていることに気づいている人はまだいないと言えるでしょう。ただ、実際に、起業家として活動したことがあるものであれば、体感できるのですね。それは、シリコンバレーの地価高騰がもたらす、若者にとっての「思考のゆとりの喪失」です。

スティーブ・ジョブズがAppleを創業した1970年代のシリコンバレーは、まだアメリカ経済の中では、完全なる「ど田舎」の状態だったのですが、この地がその後、30年以上かけて巨大IPO企業を大量に生み出すことで、この地に住む人々はどんどん豊かになっていきました。しかしながら、その結果、起きるのがインフレですね。ニューヨークもそうでした。大量の金持ちが増えると、お金をどんどん使うので、賃貸の価格や、レストランの価格など、様々な物価が高騰していきます。特に、典型的な指標として言われるのが、「不動産価格」ですね。

下のグラフは、ちょうどインターネット市場が立ち上がる寸前の1993年(インターネットの世界初の商用化は1994年)以後の現在シリコンバレーの中心となっているサンフランシスコ市内の不動産価格の推移をまとめたものです。

参照リンク:https://bit.ly/2TwBaMW

2017年時点、アメリカの家の平均不動産価格が、$248,000(2600万円程度)に対して、サンフランシスコ市内では、家の価格が$1,420,000で、コンドミニアムタイプが$1,150,000、いずれも1億円超えているわけですね。つまり、5倍近い開きが出ているということです。よくシリコンバレーに勤めている若い世代で聞くエピソードが、年収1,300万は貧乏という話です。僕のシリコンバレーでベンチャーを経営している友人に聞いても、社員を雇う際に年収1400万ぐらいは出してあげないと貯金できないという話をよく聞きます。ビックリする人もいると思いますが、これは事実なのです。もちろん、この数字は年々上がっていっています。

こうなると、辛いのは、世の中をよくして行こうとこれから起業していく若者たちですね。スティーブ・ジョブズの時代では、シリコンバレーの生活費はとても安かったので、正直、彼のように放浪生活を送っていても、周りの人もそれなりに世話してくれる経済的なゆとりもあったでしょうが、今のシリコンバレーは、もはやそういう社会ではなくなってきているということです。去年も出張した際にそのことを痛切に感じました。Googleの社員が乗るシャトルバスに罵声を浴びせたりする人がいるのですね。サンフランシスコ市内で治安が悪くて有名なのはテンダーロインで、僕がシリコンバレーでベンチャーを経営していた2010年当時は、そこだけ避ければあとは大丈夫という話を聞きましたが、今ではSoMAのあたりまでも治安が悪いという話で、シリコンバレーのテック企業に勤めて恩恵を受けられている人と、それ以外の仕事についている人の間の経済格差がますます激しくなり、社会不安が増大しているのだなと実感しました。

こういう環境ですと、若者は働き続けなければならないので、「思考のゆとり」というものが持てなくなるのですね。人間は、そんな器用にできているわけではないので、生活を維持するために多くの時間を取られるような仕事生活が常に続いていると、なかなか面白い起業アイデアというのが発想できなくなります。これは、起業家をやったことがある人だけが実感できることだと思います。連続起業家のように一度会社を売却し、ある程度の資金を得た人はこの「思考のゆとり」が持てるので、次の起業アイデアをじっくり練ることができますし、そのためのチームメンバーとのリレーションシップ含めて、成功確率をあげるための準備を念入りにすることができます。

しかし、まだ起業したことがない若者にとっては、そのようなゆとりはないわけです。すると、徐々に起業家が減ってしまうことになり、VCは投資先を失うので、エコシステムが衰退していってしまうわけですね。

よくよく考えると「東京」はすでにその状態だなと改めて実感します。サンフランシスコほど酷くはないですが、はっきり言って東京の生活コストは、かなり高い方ですね。戦後のように焼け野原になり、全てリセットされた状態であった70年前とは違い、高度成長を過ぎた今はそこら中に企業がひしめき、日常生活を皆忙しく送っている。こういう生活パターンの中からは「革新的なアイデア」というのは生まれないのですね。若者は毎日を忙しく過ごさなければならないので、精神的なゆとりがなくなり、なかなか強力な創造力を働かして起業準備をすることができない。

しかし、これは少し違った状態の都市があります。それが上海ですね。

上海は生活インフラコストがとても安い

昨年、上海に仮想通貨関連のイベントで出張した際に、まず、驚いたのは生活インフラコストがとても安いことです。例えば、東京都内のシェアサイクルの30分あたりの利用料は、平均150円。一方、上海は、4元(約50円)、やく1/3の値段なのですね。これには驚きました。しかも、日本と違って、好きな場所で乗り降りしてもOKなので、利用の自由度がかなり高いです。タクシー捕まえるより早く自転車が使えるので、僕は、近くのカフェや待ち合わせ場所に行ったりする際は、常にシェアサイクルを使ってました。

更に、バスもEV型のバス網がかなり発達しており、1回200円で好きな場所で降りることができます。これもかなり手軽ですね。公園とかに行くと、若者がよくネット投稿用の動画を取っている姿や、テーブルで楽しく歓談している様子を見かけました。こういう環境は、若い起業家予備軍にとってはとても重要なのですね。その教授の方とも合意したのですが、中国は政府がこの点をわかってやっているようですね。東京にはこういうとても安い生活インフラや開放的な空間がないのに、スタートアップ系のイベントなどは、全て渋谷や六本木などに集中しているので、若者にとっては、かなり辛いと言えます。それを考えると、日本で、起業家の数がなかなか増えないのは納得がいくわけですね。

ですから、最近、日本でも話題の「Tiktok」。僕も好きで、よく動画を見ているのですが、こういう発想が、中国の若者から出てくるのは、やはり「思考のゆとり」があるからだと思います。日本の地方にはまだこのチャンスが確実にありますね。最近、僕は地方の科学分野に豊富な人材と研究機関をもつ大学とその周辺エコシステムにこそ、活路があるのではないかと考えています。しかも、トークンエコノミーを有効に活用すればVCに頼る必要もないわけです。

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また、シリコンバレーが引き続き、世界のイノベーション・ハブであり続けるための奇策が実はあります。答えは、ゲゼルマネーの導入ですね。その点に関しては、こちらにまとめています。

https://lifeforearth.com/?p=4316

そして、もう1点、僕が重要視しているのは「人口ピラミッド」なのですね。これを踏まえて、僕は日本は「戦略的移民を取るべきだ」という意見をずっと主張しています。金融庁の委員会でもこの点を日本の官僚の方にお伝えしています。この点は、こちらにまとめています。

https://lifeforearth.com/?p=4298

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