イスラエルの起業エコシステムからみる日本市場の中途半端さ

Tel Aviv, Israel – Photo by Shai Pal on Unsplash

さて、前回、「多様性」の大切さについて話をしましたが、今日は、今の日本人に大切な「排水の陣」感覚についてお話したいと思います。僕は、今、Googleが世界で展開しているスタートアップ・インキュベータープログラムのGoogle Launch Padのリードメンターをさせていただいているのですが、そこで、世界中のメンターの方と仲良くなる機会に恵まれました。特に、すごくいい刺激をもらったのは、イスラエル出身の起業家たちです。Exit経験のある人もない人もおり、イスラエルのスタートアップのハブであるテルアビブで活動している起業家も入れば、シリコンバレーにすでに引っ越している起業家もいるのですが、いずれも共通の考え方をしており、これには、大変素晴らしいものを感じたので今日はその点を掘り下げて話をしたいと思います。

イスラエルのベンチャーはB2Bしかやらない

まず、彼らは、B2Cはやりません。なぜか?人口が少ないからです。下記は、イスラエルの人口推移とピラミッド構造です。

参照リンク:https://bit.ly/2F5wrsy

850万程度しかいません。日本の1/10以下です。ですから、B2Cで勝負しても大した事業が作れないことを彼らは自覚しています。では、隣国であるエジプトやイラクなどに事業拡大すれば良いではないかという人もいますが、それは不可能に近いのですね。彼らは文化的には欧米よりですが「地政学」上は、「中東」に位置します。これには、イスラエル建国にまつわる欧米に移住していったユダヤ人が犯してしまった歴史の深い罪が関係しているのですが、彼らは、基本、中東社会とは全く馴染むことがありません。Wikipediaの抜粋を乗せて起きます。

From Wikipedia – 中東戦争(ちゅうとうせんそう、アラビア語: الصراع العربي الإسرائيلي Al-Sira’a Al’Arabi A’Israili、ヘブライ語: הסכסוך הישראלי-ערבי Ha’Sikhsukh Ha’Yisraeli-Aravi、英語: Arab–Israeli conflict)は、ユダヤ人国家イスラエルと周辺アラブ国家間の戦争。1948年から1973年までに大規模な戦争が4度起こり、それぞれ第一次~第四次に分類される。イスラエルとエジプトの和平などにより国家間紛争が沈静化した以降もパレスチナ解放機構(PLO)などの非政府組織との軍事衝突が頻発している。

アメリカ・イギリス・フランスがイスラエルに、ソ連がアラブ側に対し支援や武器を供給していたことから、代理戦争の側面も含む。ただしイデオロギーより中東地域の利権や武器売買などの経済的な動機が重きを占めていた。そのため初期にイスラエルに支援や武器供給したイギリス・フランスは第3次中東戦争以降石油政策などからアラブ側に回り、さらに中国やイラン革命後のイランが武器供給や軍事支援においてアラブ側に入り込むなど、大国や周辺諸国の思惑の入り混じる戦争でもある。また双方の宗教の聖地であるエルサレム、ヘブロンなどの帰属問題の絡んだ宗教戦争の側面もある。

そういうことです。イギリスのMI5の諜報員だったロレンスから始まった欧米と中東の非常に辛い血塗られた歴史です。

しかし、人口ピラミッドの形は、インドに近くとても良い形をしてますね。人口プラミッド比較の分析はこちらにまとめています。

https://lifeforearth.com/?p=4298

いずれにしても、そのような理由で、彼らはB2Cは全くやらないのです。B2Bに完全フォーカスしています。

その中でも、コア・テクノロジーにフォーカスする

さらに、その中でも、コア・テクノロジーにフォーカスしています。例えば、機械学習系であれば、ディープラーニングしかならないし、バイオなども、DNA分野などかなり技術力が要求される分野しかやらないようです。なぜか?答えは、とてもシンプルです。「少数精鋭のチームで勝てるから。」

そう、規模の経済が、競争要因に働く領域には絶対に手を出さないのですね。なぜなら、そこは、北米のプレイヤーに勝てないことを理解しているからです。つまり、初めから数の勝負ではなく、質の勝負になる分野に絞り込んで起業して行きます。

VC側もSeries B以降は、USでラウンドをやることを誓約させてくる

そして、VCのバックアップ力も、非常にフォーカスが効いています。以前、楽天のLyftへの投資に関わる件で、ベンチャーの基本のラウンド定義をこちらのブログでも紹介しましたね。

話の焦点をずらしたくないので、この記事では、細かく説明しませんが、詳細を知りたい人は、こちらを参照してください。

https://lifeforearth.com/?p=4158

イスラエルのVCは、面倒を見るのは、Series Aまでで、Series B以降は「アメリカでやれ」と。これをなんと投資家との契約書に書いてくるのですね。つまり、その条件に乗れないなら出資しないというわけです。ただ、もちろん、VC側も北米の投資家とのコネクションはしっかりと開拓・維持していますから、海外からの資金調達は、起業家側に丸投げではありませんお互いに、そこは「背水の陣」をひくわけです。

その上で、コアテクノロジーのB2B分野にフォーカスすることで、北米市場に進出しても十分生き残れるだけの技術的な差別化が効いたプロダクトと戦略を持って上陸するわけです。これなら、北米市場で生き残れる確率は一気に上がりますし、必要な下準備をしっかりした上で上陸しているので、現地で無駄な人的資源や資金を浪費することも最小限にできます。とても筋肉質な起業モデルです。

Orbのときに、北米市場の準備段階として、2017年にRed Herring Global Top100のベンチャーコンペティションに参加したのですが、その上位のベンチャーの中にも、同じGlobal Top100に入った中で1つ、イスラエル発のB2B系SDWANのベンチャーがいました。SDWANの分野は、日本でいうとMidokuraなどが有名ですが、かなりコアテクノロジーを要求される分野なので、Google Launch Padのメンターからこの話を聞いた時に納得が行きました。例えば、彼らや僕らのような海外勢は、北米のB2Bソフトウェア市場で目立つために、アメリカの著名IT調査会社であるGartnerから推薦をもらえる活動などをするのですが、彼らは、コンペティションはやっていないので、B2B分野で定評のあるRed HerringのGlobal Top 100を狙うわけですね。いわゆる「ローカライゼーション」のキャズムを超えるためのマーケティング戦略です。

Orb is awarded Red Herring Global 100 Winner 2017


日本市場はどう中途半端なのか?

という具合です。これからすると、日本は、非常に中途半端なのですね。甘えようと思えば甘えられる要素が、アホほどあります。まず、人口がまだ1億以上、その中でも、20代から40代のいわゆるインターネットをアクティブに使う層がイスラエルの10倍近い3,000万ぐらいいますから、B2Cでも勝負できます。しかも、株式市場の流動性は、世界で第3位(下記の図を参照)ですから、VC連中も、31位のイスラエルのVCほどの切迫感がないので、日本のVCの多くは投資先の国内ベンチャーには、日本でIPOしてもらって、IPO後4ヶ月ないしは6ヶ月後のロックアップ解除後に、「利確」してベンチャーとは「さよなら」することで食べていけます。この話をその仲良くなったイスラエル人の起業家と話をしたら、(Launch Padに参加している日本のベンチャーが皆口々に「グローバルに出て行かなくてはいけない」と言っていたのに対して)「イスラエルと違って、それだけ恵まれた市場環境があるのに、なんで、グローバル狙うの?」と聞き返されました。笑

スタンダードプアーズの2012年のデータより。参照リンク:https://bit.ly/2VYDKIr

日本のVCがよく投資先の国内ベンチャーに求めてくるバリエーションは、日本のIPO市場の平均時価総額の逆算から割り出しているとても単純な方程式で、だいたい150億から250億でIPOしてもらえれば、VC側にはリターンがでるようなバリュエーションを提示してきます。よく言われる「ストックオプションの発行済株式10%キャップ」も同じです。ストックオプションプールは、ベンチャー側は、別に自由に設定できるわけですが、日本のVCが10%を求めてくるのは、IPO時のリターンから逆算してのことです。Orbは20%でやっていました。なぜなら、シリコンバレー発の競合が、15%から25%ぐらいの間で皆やってきますし、現物株式の付与などもやってくるので、日本のモデルで北米の経営モデルに対抗するのに、VCのいいなりで10%にしていたのでは、経営的に会社が成長すればするほど、かなり辛い勝負になることがわかり切っていたからです。

また、IPO後もその状況は変わりません。VCは、ロックアップが解けたら保有している株式を売って、ベンチャーとは「さよなら」しますが、起業家側はそうも行きません。しかし、日本の株式市場に上場したベンチャーは、7倍以上の資本調達力をもつアメリカの競合と戦い続けなくてはなりません。

僕から見ると、これは戦略が全く成り立たない状況で、太平洋戦争時代の「竹槍」で「戦車に挑む」世界と変わらないのですね。打開策は2つあると考えています。まず、アメリカのNASDAQやNYSEでのIPOはアメリカの競合を破らない限り意味を成しません。僕が在籍したCriteoというフランス発のアドテクベンチャーはRetargeting Adsの分野では、Googleにすら脅威と見なされるほど、北米市場でリーディングプレイヤーの地位を確保し、その後にNASDAQでIPOしましたからこれは意味があるシナリオです。しかし、アメリカ市場は、どちらかというとヨーロッパ寄りの文化なので、日本発でこれをやるのはかなりキツいでしょうね。

1つは、1000兆円というジャブジャブの国内預貯金市場をターゲットにし、先進国中最低の法人融資金利を活用したデプトファイナンス(債権による資金調達)、もしくは、仮想通貨を使った手法です。前者は、孫さん率いるソフトバンクが多用している手法ですね。後者は、金子勇氏が開発したビットコインがよい例ですが、開発コストもマーケティングコストも「タダ」です。実に近未来的です。笑

後者は、スタートレックに出てくるUSSエンタープライズ号と同じですね。その点は、こちらにまとめています。
https://lifeforearth.com/?p=1902

僕が興味あるのは、後者の方です。なぜなら、その世界へのインパクトたるやソフトバンクとは比較にならないレベルです。今やビットコインを知らない人は世界にいないレベルであり、世の中の最先端技術を追っている人で、ブロックチェーンを知らない人はいないわけです。グーテンベルグの活版印刷技術の発明に匹敵する文明社会へのインパクトであると考えています。そして、このビットコインが世界に証明した資本が不要のイノベーションこそ、ポスト資本主義の核の1つであると考えています。

この点については、またの機会にお話したいと思います。いずれにしても、この記事のポイントとしては、今の日本人が、世界に自分たちの作り上げた「日本的な何か」をアピールし、この統合化が進む21世紀において、世界の文明の進歩に貢献したい場合、相当意識的に「背水の陣」を引かないと、絶対に実現しないということです。

 

 

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