Appleのクレジットカード事業進出はハードウェア業態からサービス業態への主軸転換の布石

3月25日に開かれたAppleのイベント「It’s showtime」で発表されたAppleTV+と、もう1つ面白いなと感じたのは、Apple Cardというクレジットカード事業に進出したことですね。この狙いについて掘り下げて見たいと思います。

ユーザーの囲い込み

まず、1つ目は間違いなく「囲い込み」だと思います。もともとこの考えは、Amazonが日本市場で楽天と競争する中で知覚し、アメリカにも持ち込まれた方策です。以前、QRコード決済の重要性についてこのブログで触れた際にお話しましたが、楽天は、あおぞら銀行とオリックス・クレジットと合弁会社で会った株式会社あおぞらカードを2004年9月に買収し、クレジットカード事業に進出しました。この狙いは、カード発行体として入るイシュア手数料と、楽天市場の加盟店から手に入るアクワイヤラ手数料を収益源にし、一部をユーザーにポイントに還元することで、他のEコマース事業と差別化することでした。

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要するに、楽天ポイントの高い還元率の原資は、楽天のカード事業によって支えられているのです。もちろん楽天市場の加盟店自体の負担もありますが、そこに加えてカード事業による収益の一部もポイント還元に回すことで、競合と強力に差別化しているわけです。

そして、Amazon Japanは、楽天のこの動きに対抗するため、自社でもAmazon Cardを発行するようになったのですね。僕の記憶では、Amazonがクレジットカード事業を始めたのは、2009年ごろです。楽天が楽天カードを使って楽天市場の事業を成長させていることに脅威に感じたわけです。リーマンショックによる景気後退も後押ししたと見ています。

その後、アメリカ本国でも、Amazonのカード事業は拡大しており、最近は、上のAmazonプライム会員に発行しているクレジットカードを使ってAmazon.comで購入すると、なんと5%のポイント還元率(アメリカでは、リワードと言う)を提供しています。これは相当すごいですね。また、このカードは、日本のカードと同じように、特約加盟店で使うと2%の還元、それ以外の加盟店でも1%の還元を受けることができます。

この流れが、シリコンバレーの企業にも伝播して言っていると見ており、まず動いたのはUberですね。


Uberのクレジットカードは、入会してから90日以内に$500以上使えば、$100キャッシュバックされます。さらに、Uber Eats含むレストランやバーなどで使うと4%の還元率、ホテルやフライトは3%などです。当然、同じシリコンバレーの競合であるLyftもクレジットカード事業を展開しています。この方が、ユーザーの離脱率を引き下げることができるからですね。

ちなみに、楽天が、なぜ、このような囲い込み政策を強力に推し進めるかと言えば、日本の人口が減っており、日本経済が低成長時代に入っているからです。日本は、GDPのサイズからすると、先進国の中で、ここ20年でもっとも経済力が衰退していっている国家経済です。つまり、パイの大きさが小さくなっていっているので、パイの取り合いで負けないために、他に取られないようにお客さんを囲い込むわけです。先進国の中で、ポイントプログラムが日本だけ異常に発達している背景はそこです。一方、アメリカ、そして、中国などもそうですが、人口が増えている国家経済では、囲い込むことよりどんどん新規顧客開拓や市場拡大をしていくことの方に関心の中心が行くのですが、リーマンショック以降、グローバル経済は、分断化の危機にあり、特にアメリカは、それまで進めてきたグローバル自由主義が世界中でローカルプレイヤーや現地政府との対立を起こしていることもあり、日本で発達した囲い込み政策を採用する企業が増えているわけですね。この辺りは人口ピラミッドや人口の成長推移を見れば、すぐにわかるのですが、その点はこちらにまとめています。

https://lifeforearth.com/?p=4298

ですから、Apple Cardは間違いなく、Apple Storeの利用など、Appleのサービスや製品ポートフォリオの中を優先的に選んで生活してくれるユーザーに、上のAmazonやUberのクレジットカード同様に還元していくのは間違いないでしょう。今年1月に起きたiPhoneの予想を大幅に下回る売上減少による「アップルショック」から見ても、ハードウェアビジネスという「売り切り」モデルの事業への依存度を下げないとAppleの次の成長路線が見出せなくなってきているからだとみています。スティーブ・ジョブズ氏が健在であれば、以前の路線でも様々な優れたハードウェアの投入やその改良など、シリコンバレーでもとてもユニークと評価される経営手法で、壁を突破できたと思いますが、それはもう今のAppleには望めないと見ています。なので、他社の戦略などを参考に、適宜、自社にも取り入れながらやっていくモデルに経営が切り替わりつつあることを如実に感じます。

その点は、ティム・クック氏の今回のイベント内で「サービス」という言葉を連発している点から僕は認識しました。このWSJがまとめた3分動画が、とてもわかりやすいです。

Appleが今回のイベントで、AppleTV Plusなど取り分けてサブスクリプション系サービスの拡充を進めてきている発表を複数行なっているのも、その影響だと見ています。ただ、これはAppleにとっては、スティーブ・ジョブズ亡き後の、最大の挑戦になるでしょう。中長期では大きな組織改革も着手しなければならなくなると見ています。

https://lifeforearth.com/?p=4879

ユーザーのライフスタイルを知る

もう1つは、ユーザーのライフスタイルデータを取ることができる点です。ビックデータですね。Appleのユーザーが、どこにお金を使っているか?わかるわけです。VISAやMasterの仕組みを使えば、「いつ」、「どのカテゴリの加盟店(レストランや、スーパーなど)」で、「いくら」、使ったかは、Apple側でもわかります。すると、Appleのユーザー像をもっと正確に知ることができるわけですね。リテール事業をやっているAppleにとってはとても貴重なデータです。ユーザーのライフスタイルを知ることによって、自分たちの製品やサービスをどのように改良して行くべきか?または、どのような製品カテゴリやサービスを新たに検討すべきか?インサイトを得られるからです。こうやって、より戦略的にAppleの1ユーザーあたりの自分たちの製品やサービスに対するLife Time Value(=LTV=顧客生涯価値)を引き上げていくことができるからです。メーカーには、LTVを使って経営する考え方がほとんどないですね。LTVとは、小売業で発達している経営指標です。

From Wikipedia – 顧客生涯価値(こきゃくしょうがいかち、Lifetime Value、LTV)とは経営学用語の一つ。企業にとってある一人の顧客が生涯にわたって企業にもたらした価値の合計を言う。企業にとっては、一人の顧客から得た利益は大きくなることがあるが、そのような場合に一人の同じ顧客を維持するために相当の費用をかけている場合がある。このような場合の一人の顧客が生涯に企業にもたらした利益の総額から、一人の顧客を維持するために支払った費用の合計を引いた数値を顧客生涯価値と言う。この概念が多く用いられている場合は、企業にとっては顧客の新規開拓を行うよりも、現状の顧客を維持させるほうがさらに多くの利益をもたらすであろうと想定が成り立つ。新規の需要が獲得しにくくなった成熟市場でこの概念が特に多く用いられている。

ただ、既存のクレジットやデビットカードインフラを使っても「何を買ったか?」まではわかりません。実は、中国のAliPayとWeChat Payはこの点で、アメリカのプレイヤーよりも時代の先を行っています。なぜか?その答えは、「QRコード決済を普及させたから」です。その点はこちらにまとめています。

https://lifeforearth.com/?p=3625

僕が、日本のキャッシュレス化で、QRコード決済を推進すべきだと言っているのはそういう背景でもあるのですね。なので、リテール事業をわかっていないカードブランドJCBの「スマートコード」などは、愚策中の愚策ですし、目先の加盟店欲しさにそれに乗っかってしまったメルカリは、残念ながらあまり評価できないのです。

https://lifeforearth.com/?p=3678

今後、Apple Cardがどのような付加価値サービスをユーザーに提供して行くか、注目しています。

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