テスラのマーケティングには、なぜ、広告費用が不要なのか?-スタートアップ・マーケティングにおける常識①

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テスラが、ほとんどマーケティング費用を一切使っていないことが、話題になっていますね。これが、Forbesの記事に出ていたその図です。トヨタやBNWが大量の広告費用を使っている一方で、Teslaは全オンライン広告へのマーケティング予算のアロケーションがゼロです。


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これは、プロダクトとマーケティングを起業家としての重点スキルとしてもつ僕にとっては、全然、違和感のない話です。同時に、スタートアップのマーケッターの世界では常識ですが、大企業では全然考えられていない話なので、僕のノウハウも含めてお話しておこうと思います。僕が、Orbを創業してSBIグループに売却するまでの4年間、マーケティングに使った費用は、30万円のみです。この30万円は、とある地域金融機関に配られている雑誌への寄稿で、お付き合い程度の金額をお支払いしたもので、それ以外は一切、広告費用をかけたことはありませんでした。リスティング広告もSNS広告も打ったことはありません。元フェイスブックのメンバーが営業にいたときに、彼のクレジットで使ったことがあるぐらいです。しかし、Orbの名前は、国内でもよく知られていましたし、Orbが取り組んでいた地域通貨Xブロックチェーンの市場は、僕がOrbを創業した2014年当時は、誰一人知りもしなければ興味もない市場でしたが、今では、完全にメジャートレンドに乗っており、色々が競合が参入してくる市場に成長しました。どうやって、このような状態を作り上げたか?

スタートアップにおけるマーケティングの基本は緻密なPR作戦

まず、これが鉄則です。PRとは、マーケティング手法の1つです。メディアに取り上げてもらうこと、つまり、記者にプロジェクトの内容について記事を書いてもらうことです。Orb時代にもこれを多用しました。このノウハウの元は、僕が独立してE-コマースのコンサルティングをやっていた際に、サッカーくじ「BIGとtoto」コンサルをやっていた時に編み出した手法なのですが、「記者心理」を読んで、事業内容に、「インパクトがあり、時代性のあるストーリー」を与えることで、記者が記事を書きたくなるような話を市場に振るのですね。市場というのは、フェイスブックやツイッターなどをSNSを利用して拡散しますが、当然、自分の個人のアカウントを使ってますので、タダです。笑

僕がOrbを2014年に創業して、まず仕掛けたネタは、「ビットコインは、第三のIT革命である」というストーリーです。パーソナル・コンピュータ、インターネット、そして、ビットコインであると。当然、これを理解してもらうには、記者の人を知恵付する必要があります。なので、記者に人に関連する海外の記事や、僕が作った資料を渡して理解してもらいます。第三のIT革命というのは、非常にインパクトのある言葉ですから、記事の見出しとしてもバッチリ使えます。なので、色々なメディアの記者が取材のコンタクトをとってきてくれるようになります。

次に、僕が仕掛けたのは、2015年にOrb Version1をリリースする際で、このタイミングで、Go to market strategyに基づき、ターゲット市場に仕掛けるPR戦略と、テック市場に仕掛ける製品PR戦略の2軸に分けて実行していきました。まず、ターゲット市場に仕掛けたのは、「地域通貨Xブロックチェーン」ですよね。この時点で、まだ国内でこのアプローチを取っている会社は一社もありませんでしたら、それだけで目立ちます。つまり、記者が記事にしやすい分けです。その時の具体のネタは、「地方経済の衰退の原因に、日本の決済インフラのキャッシュレス化の遅れがある。これは日本の決済インフラが高コスト体質であることに問題があり、ブロックチェーンを使えば安価に構築できる」というストーリーです。これはとても面白い分けですよ。なぜなら、そんなことを言っている人は今までどこにもいなかったからです。しかし、きちんとロジカルにこれを説明していました。だから、注目を集めたのですね。

そして、テックサイドについては、メディアからの注目が集まり、かつ、法人顧客の利用検討テーブルに乗っかるよう、これは、あえて「ビットコインのブロックチェーンを否定する」というPR戦略を取りました。なぜなら、まず、Orbのブロックチェーンは、PoSを採用しており、ビットコインはPoWです。PoWよりPoSの方が電気代は圧倒的に安いです。その点は、こちらのブログに詳しくまとめています。

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そして、いくつか既存のPoSの改良点もOrb Version1.0に与えていたのですが、それに注目してもらうには、既存で一番知られている注目株の技術を否定することで、こちらに注目を集めるというPR作戦です。ブロックチェーンの様々な可能性はきちんと抑えつつ、テクノロジーでは、Orb Ver1の方が優れているという点を数点ほど絞り込んでネタで用意します。当然、ビットコインのブロックチェーン自体、新しい技術ですから、まだまだ改善の余地はあるわけです。だから、その問題点を指摘し、改良されたテクノロジー、というのは、これも記者の人にとっては記事にしやすいネタなのですね。

しかし、あまりに情報量が多いと記者の人も頭が混乱してしまうので、Orb Ver1の特徴は3点ぐらいに絞ります。これもとても上手く行きました。Orb Ver1の発表会のイベントは、イベント会社を一切使わず、120人ぐらいのお客さんにも参加してもらえましたし、このOrb Ver1のネタで、日経新聞の朝刊一面にOrbがのり、更にNHK朝のニュースの7時台の時間枠でも取りあげてもらいました。また、お陰で、グローバル展開は、事業戦略上は、まだ先においていましたが、この時のPR作戦によって、当時、ビタリックがEthereumを立ち上げる前に作っていたColored Coinと比較されるなどして、海外の有力メディアでも「ブロックチェーン市場での注目スタートアップ」の1社として取り上げられていましたね。

そして、最後に仕掛けたのが、Orb DLTのPR戦略です。これは、元Oracleの営業とBDのヘッドも参画し、チームも育ってきていましたので、マーケティングは僕ともう一人の若手でやりつつ、より大掛かりなものを仕掛けるため、営業チームや開発チームとより密に連携し、引き続き、ビジネスサイドとテックサイドの2軸で作戦を展開しました。Orb DLT自体がソフトウェアとして、かなり仕上がってきており、ベンチマークテストをする準備も整っていたからですね。テックサイドでは、まず、AWSに対抗するOracle Cloudをスタートアップ市場に絶賛アピールしたいOracle社と共同でベンチマークテストを実施することで、テスト費用(1回200万から300万かかる)も無料にしてもらい、かつ、その実績を2,000人近い顧客が集まるOrace Cloud Conference Tokyoでリリース発表するという手はずを整え、更に日経コンピュータにその事前の情報をある程度流すことで市場が注目するように仕掛けました。当時、このような世の中でよく知られたCloud環境でベンチマークテストを実施し、リニアスケーラビリティを証明できたプライベートブロックチェーンのソフトウェアはOrb DLTのみです。

それと同時に、B2B向けに売るソフトウェアは、採用担当者が、有名IT誌の評判を気にします。有名どころは、ガートナーやIDCなどですね。ガートナーが毎年表彰する注目ソフトウェア(SaaSなどのクラウド含む)のTop100に選ばれるとそのソフトは確実に売れます。主なアワードが3つある中で、唯一ピッチコンテストに応募可能で評価してくれるのが、Red Herringだったので、そこのRed Herring Global Top 100を受賞することで、更にブランディングを強化しました。Orb DLT自体は、技術面の専門的な話もしっかり折り込みながら、データーベースの雄であるOracle社が注目しているというブランディングを与えることで、Orb DLTの技術力とその成果が、より効果的に市場に伝わるように努め、専門誌である日経コンピュータの記者に書いてもらいました。このような媒体選定も大事です。技術面は、やはり、専門誌でアピールすることが重要です。

ビジネスサイドでは、地域通貨Xブロックチェーンによる地方創生のストーリーは、もう記事ネタとして陳腐化していたので新たに「藩札2.0」/「電子版藩札」という新しいネタを作り上げました。引き続き、日本の地方創生に取ってキャッシュレス化の重要性の文脈もここに与え、地銀をメイン顧客にしていましたから、更にその先を見据えた、彼らにとっての新しいビジネスモデルになる藩札システムの現代版とも言えるトランザクション・レンディング(PoSデータを人工知能で解析する小口融資)の話なども加えることで、この藩札2.0のストーリーの肉付けをしていったわけです。このお陰で、いろんなベンチャーが、Orbと同じメッセージを市場に向けて発信するようになりましたね。要するに、Orbのマーケティングメッセージが一番効果的であることを理解したからです。

つづく。

テスラのマーケティングには、なぜ、広告費用が不要なのか?-スタートアップ・マーケティングにおける常識②

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