ジョブズ亡き後のアップルの垂直統合戦略は、トヨタの「カイゼン戦略」へのシフトとみている

さて、9月10日に、アップルから新たなiPhoneである、iPhone11とApple Movie Plusの価格体系が発表され、僕もずっと追いかけているテーマの一つなので、考えをお話しておきます。原文の日経の記事はこちらです。

僕が注目している要点は、以下の通りです。

  • 新型iPhone「11」の価格を699ドル(日本では7万4800円)と、現在主力のXRより$50ドル値下げ
  • 11月から米国で開始する動画配信「アップルTV+(プラス)」も、業界最安値の月額4.99ドル(約540円)+ iPhoneユーザーは、1年間の無料枠がついてくる
  • Apple Watch 3の価格を $200と$300(モバイル無線利用可能)に引き下げ、新型5は$400と$500(モバイル無線利用可能)
  • Apple Watchのヘルスケアアプリ機能を拡充。

ここから、大きく2つの戦略が見えてきます。ただ、その話をする前に、ジョブズ時代のおさらいをしておきましょう。すると、その後を継いた、ティム・クックら経営陣の頭の中が見えてきます。

ジョブズの垂直統合戦略は、常に「新デバイス+新キラーアプリ」と共にあった

まず、この点の理解が大事なのですよね。彼が、アップルのCEOの復帰した後に、仕掛けた①iMacはSafariとiMovieを組み合わせた低価格な商品、その後の、②iPod+iTunesは、完全に新しい市場開拓、その後、③iPhone+iTunes+AppStoreも、完全に新しい市場開拓でした。そして、一番のポイントは、②から③へのシフトで、②のiPodを捨てています。

ジョブズ亡き後のアップルの弱点は、まさにここで、本来なら、アップルウォッチ、アップルTV、そして、おそらくは、全く新たなデバイス、これらを常に仕掛けていくことで栄えるのがジョブズが率いていた時代のアップルの垂直統合戦略の真骨頂でした。つまり、常に市場開拓者であり続けるということですね。同時にもう1つ重要点な点は、その仕掛け方で、ほぼ完璧に仕上がった組み合わせで、その「新デバイス+新キラーアプリ」市場に投入してきました。だから、強烈なセンセーショナルなマーケティングを仕掛けることができた。これは、彼の頭の中に、その「完成されたイメージ」があるから実現できることです。そのイメージに、デバイスとアプリが到達するまでは市場に投入しなかった。多くの社員は、当然、彼の頭の中にある、その水準がイメージできず、不満を持ったようですが、これは天才的な起業家にしかできないこと、そのような天才的なセンスを持った起業家は、今のシリコンバレーにはいません。イーロン・マスクでも難しいと思います。その点、フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグをインタビューした、レイド・ホフマンのコメントから容易に理解できます。詳しくは、「こちらの記事」にまとめています。

であるから、彼が亡き後のアップルは、未完成状態でもいいから市場に投入して、カイゼンを繰り返すことで戦略の見直しを測るというパターンを取っているとみています。そして、今回の発表から見えてくる戦略の中身を理解するには、2つのことを理解する必要があります。

トレンド①:スマホ市場は、完全に成熟市場化している。

以下は、Bondのマリー・ミーカーが毎年て発表しているレポートInternetTrend2019からの抜粋です。グラフを見れば一目瞭然で、スマホの販売台数はすでに下降トレンドに入っています。新規の購入者がほぼいなくなり、買い替え需要だけにシフトしているとこういう傾向がで始めます。

URL:https://www.bondcap.com/report/itr19/#view/8

iPhoneよりも圧倒的に低価格ラインナップ商品の多いAndroidですら、販売台数が年々下がってきています。

トレンド②動画サービス市場は、「取捨選択の時代」に入る

そうして、もう1つが、こちら。動画サービスの価格体系は、ディズニーが、仕掛けているディズニープラスで、月額6.99ドルで、これが競合のNetflixの最低ラインであるベーシックプラン9ドルやAmazon Prime Videoも月額8.99ドルよりも低く話題になっていますが、それより更に下をいく価格を仕掛けてきているわけです。しかも、ディズニーより2ドルも低いですから、かなりアグレッシブですよね。

なぜなら、Apple TV Plusを加えて、ユーザーは、もうすでに4つの選択肢がある

  • Netflix: 9ドル/月
  • Amazon Priceビデオ:8ドル/月
  • Disney Plus: 6.99ドル/月
  • Apple TV Plus: 4.99ドル/月

全部サブスクリプションしたら、毎月¥3,000円から¥3,500円かかります。これに携帯電話のパケット代が更に乗ってくることを考えると、若い世代が4つ全部購読するのは、正直、考えにくいです。そろそろ、「取捨選択の時代」に入るとみています。具体的にどんなことを予想しているかというと「観たいドラマがあるときだけ購読して、全部見終わったら、別のサービスのまだ観ていないドラマに契約を切り替える」などですね。月額で自由に契約を更新できるので、1ヶ月単位であれば、若い世代のユーザーなどは、けっこう機動的に自由にこのような動きを取ると思います。ただ、軸となる購読サービスは、1つか2つは作るはずです。例えば、Apple TV PlusとAmazon Primeビデオを継続契約にしながら、他の2つか3つは、放映しているドラマ次第で定期的に入れ替えるなどですね。

$4.99の価格は、独自コンテンツで、ユーザーのオーガニックグロースできるまでの布石

なので、アップルの動画サービス戦略は、他の競合が取り入れているような、既存のハリウッド映画やアニメ作品をコンテンツラインナップはほとんど考えておらず、独自のドラマコンテンツで勝負してくるようです。つまり、そこに金をかけるのは金の無駄であると。しかも、外部のデバイスにサービス解放しつつも、iPhoneユーザーには1年の無料枠がついてくる。これの戦略は、かつてのiTunesからApple Musicのシフトの際に仕掛けたモデルで、Apple Musicの1年利用無料枠をつけることで、Spotifyにユーザーが流れないベースを作りつつ、1年かけて、音楽アーティストとの契約を売り切り型からサブスクリプション型に切り替えていき、この結果、2019年6月時点で、Spotifyの契約者1億人に対して、6,000万を実績を出している。

この戦略を再度、実行する上でカギなのは、デバイスの価格ですから、できる限り低価格モデルに切り替えることで、Appleは、先に述べた「その1つないしは2つの動画サービスに選ばれる」ために、この4.99ドル/月が効いてくるわけで、いきなり独自のドラマラインナップでNetflixやコンテンツメーカーのディズニー、さらに、日本であれば、吉本とお笑いコンテンツを作るなど、ローカルコンテンツでこの2社に対抗してきているAmazonと、互角に戦うことはできない現実を受け入れての戦略ということです。

この考え方は、実は、仮想通貨業界で、トークンエコノミー 版のNetflixを作ろうしていている「Tatatu」の分析でも、Netflixの事例を元に、詳しく触れているので、興味のある方は「こちらの記事」を参考にしてください。

ですから、今回のアップルの経営判断を観ていると、一時期は、スマホ市場の鈍化を見越して、売り上げと利益を落とさないために、ひとまずは高級路線化をして、付加価値をあげながら購買単価をあげたけど、それはユーザーから(僕もそうですが)、「高過ぎる!」と非難されて、結果、例のアップルショックが走って、プロダクト戦略の修正を測ってきているわけですね。この辺りは、ジョブズ時代とは違って、トヨタのカイゼン戦略に近いわけですね。市場にある程度の仕上がりの製品を投入しながら、カイゼンしていくことで、市場を作っていく。

ですから、僕の今後のヨミとしては、アップルは、デバイスの価格は、コストや次世代開発のための研究開発費を抑えるためのギリギリのプライシングで展開しながら、サブスクリションビジネスで利益を生み出していける土台を作っていく、というものになるとみています。その場合、他の動画競合サービスに比べて「20兆円」という貯金があるので、かなり余裕のある勝負ができる。しかし、ここにボトルネックがあり、それはやはりデバイス事業を持っていることなのですよね。他のメーカーが、デバイスを持っている会社のサブスクリプションサービスを積極的に受け入れてくるか?この営業努力を突破することが重要になるわけですが、今のアップルを観ていると、まだまだ過渡期なのだと思います。それは、次のアップルウォッチから見えてきます。

ようやく価格を下げて、キラーアプリの勝負どころも捉え始めたアップルウォッチ

先ほどのジョブズ時代のアップルの真骨頂である「新デバイス+新キラーアプリ」の組み合わせでいうと、その対象は、まさにアップルウォッチになるわけです。しかし、僕が、初期のアップルウォッチをみたときに、びっくりしたのは、iPhoneとほぼ同じ価格の8万円ぐらいで売りに出したこと。当時の高級化路線の影響もあったと思います。しかし、iPhoneがないとまともに使えないデバイスなのに、価格が、iPhoneと同じ。。。これは高すぎます。しかも、店舗で使ってみたら、例の新キラーアプリもない。ということで、全く買う気になれなかった。

ジョブズであれば、低価格で原価ギリギリで勝負しながら、キラーアプリの価値をユーザーが理解し始めると、一気に普及がひじまり、今度は、新機種の投入で価格帯をあげることで、一気に利益が生まれるようになる。これがこれまでのアップルの得意の戦略でしたが、今はこの勝負ができなくなってきています。特に、新デバイスを仕掛ける力が弱まっている点が難題で、ジョブズのよき相棒として新デバイス開発を支えてきたジョナサン・アイブもアップルを出てしまいましたから、アップルの新デバイスの開発力はどんどん低下している。

しかし、ここにもようやく軌道修正がかかってきており、それが、Apple Watchの低価格戦略ですよね。そして、キラーアプリのフォーカス点もどうやら見えてきたようで、それが「ヘルスケア」です。ここの機能がApple Watchは非常に充実してきていて、手首につけますから、「脈」をとることができるので、「健康アラート」のシグナルを出せるような機能の実装を進めているようです。Apple Watchであれば、当然、Apple Musicも組み込めるし、ゲームの可能性もあるとみている。

これも、基本、先ほどのトヨタのカイゼン戦略と同じで、市場に投入しながら、改良を加えて、ブレイクスルーしていくやり方です。新デバイスの開発力は低下はしていますが、今、パーソナルコンピューター業界で、スマホの次のデバイスを仕掛ける実力をもった会社は、Apple以外にはなく、そして、彼らは現にアップルウォッチを出してきていますから、こいつをスマホの次の新デバイスに育てることができるかが、向こう10年のアップルの成長の鍵になるとみています。

ただ、全体の方向性としては、以前にもこのブログで取り上げていますが、ハードウェアに依存しすぎてきた収益構造を、サブスクリプション収益にシフトさせて、サービス企業に生まれ変わろうとしている、であり、その点は「こちらの記事」に詳しくまとめています。

以上、みなさんの参考になれば幸いです!

 

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